人間の体温は、いつもほぼ37℃くらいで保たれるようにできています。また、42℃以上にならないように体温を調節するという機能まで持っています。
何も考えなくても、人間の身体は体温が上がれば勝手に下げようとするし、体温が下がれば勝手に上げようとします。夏の暑い環境で運動をすると、身体の体温は上がります。
そのまま体温が上がり続けてしまうと熱中症になってしまうため、身体は頑張って体温を下げようとします。
今回はそんな、どんなことをしたら体温が上がり、体温が下がるのかということや、暑い環境で運動をしているとき身体はどのように体温を下げようとしているのか、といったことを解説していきます。
身体が行なっている熱移動の仕組み(=体内から体外へ熱をどのように逃しているのか?逆に体外からどのようにして体内に熱を取り込んでいるのか?)を知ることで、どうやったら体温を効率的に下げることができるのかがわかります。
>>参考文献はこちら。
「職場における熱中症予防対策マニュアル|厚生労働省」
厚生労働省によって発表されている、職場において発生する熱中症の症状・予防方法・緊急時の救急措置・熱中症に事例などがまとめられたマニュアルです。
体温を上げるものと下げるもの
体温は何をしたら上がるのか?何をしたら下がるのか?まずはここからです。
「運動」と「食事」は体温を上げる
まず「運動」から。運動をしたり体を動かすためにはエネルギーが必要です。そのエネルギーを体内で作り出す時に、エネルギーと一緒に熱も産まれます。
次に「食事」。食事をして、体内に様々な食べ物を取り入れると、その食べ物や栄養を消化・吸収・分解しますが、その際にも熱が発生します。
よって、運動をしているときや、食事を食べ終わったあとは、体温が上がります。
体温を下げる方法は4つある
では、運動や食事で上がった体温を身体はどう下げるのか。その方法は4種類あります。
「体温を下げる方法」と書きましたが、下に紹介した4つの方法はあくまで「熱を移動させる方法」なので(【4】の発汗だけは体温を下げることのみに働きます)、これらの方法で逆に体温を上げることもできます(下で紹介している「たき火」のように)
1)伝導
伝導とは「何か物体を通じて熱が移動する」こと。
例えば、指で氷をつかむと、指は冷たくなり、氷は溶けますね。これは指と氷の間で、伝導によって熱が移動していることを表します。
モノとモノが触れると、熱は、熱いものから冷たいものに移動します。
2)対流
1)の伝導は「物体」でしたが、対流は「液体や気体を通じて熱が移動する」ことを言います。
例えばお風呂。温かいお風呂に入ることで、温かいお湯(=液体)の熱が、お湯よりは冷たい身体に移動することで、身体が温まりますね。
さらに、たき火。たき火にあたるとなんであったまるかって考えたことありますか?
火は実際、周りの空気を温めています。そしてその暖かくなった空気(=気体)が肌に触れて、対流によって空気の熱が身体に移動し、身体が温まるのです。
3)放射・輻射
これが一番わかりづらいのですが。一言で言うと、物体から発せられた「遠赤外線」によって熱が移動する現象のことです。
これをわかりづらくさせているのは2つ。
1つは赤外線が目に見えないこと。2つ目は伝導や対流の時のように、何かが触れているわけではないということ。
この輻射熱の一番代表的なものが「太陽」です。
太陽の「熱」は目に見えませんね。何かに触れているわけでもありません。でも、太陽が空に出ていれば、気温は上がるし、あったかいですね。これが「輻射熱」による熱の移動です。
太陽だけではなく、この地球上にあるすべての「モノ」から赤外線が周りに発せられています(太陽は地球上にはありませんが)。そしてモノは赤外線を発していると同時に、その赤外線を吸収もしています。
夏に外が暑いと家の中の気温も上がるのは、この輻射熱によって、外の熱を家の壁や屋根や地面が吸収しているからです。
4)発汗(=汗をかくこと)
汗をかくことで、その汗が皮膚から蒸発していくことによって熱が体外へ出ていきます(=このことを「気化熱」と言います)。
この発汗については、ここからもう少し具体的に話していきます。
体内の熱を体外に放散する仕組み
人間の身体は体温が上がりそうになると、体温を下げるために体内の熱を体外に放散しようとします。そのためにまず、体内の熱を血液とともに皮膚の表面の方へ移動させます。
熱を皮膚表面に移動させることで、その皮膚からの「伝導」「対流」「輻射」による熱移動が起きやすいようにします。
しかし、暑い夏。
気温が高いときは、肌に触れている空気も熱いので、対流によって体温はなかなか下がりません。また、周りにあるモノも熱を持っているため、伝導や輻射によって体温を下げることもなかなかできません。
周りのモノや空気が自分の体温よりも高い場合は、熱を放散するどころかむしろ熱を吸収してしまうため、さらに体温は上がっていってしまいます。
さらにそんな気温の高い日に運動を行うと、運動をするためのエネルギーを生みだすためにさらに体内で熱が発生するため、どんどん熱が体内にたまっていきます。
これが体外に放散されずにずっとたまっていってしまうと、熱中症になってしまいます。
よって、気温が高い暑い夏に一番熱放散の役割を果たすのが、4)の「汗をかく」ことになります。
参考文献によれば、汗100mLを全て皮膚の表面で蒸発させると、体重70キロの人の体温は約1℃下がるそうです。
しかし!!ここで更に体温を下げることを邪魔するのが「湿度」です。
「湿度が高い」というのは、空気中に水分がたくさん含まれているということです。
水分がたくさん含まれている空気中には、なかなか汗は蒸発することができません。蒸発しない汗は、熱を体外に放散せずに、ただ水分と塩分を身体から失うだけになってしまいます。
体温を下げるために汗をかいたのに、体温は下がっていないので、身体は引き続き汗をかいて体温を下げようとします。よって湿度が高い日は、大量に汗をかくのです。
まとめ
体内の熱を体外へ放散する方法は「伝導」「対流」「輻射・放射」「発汗」の4つ。
気温が高い日は「伝導・対流・輻射」の3つの熱移動手段があまり働かなくなってしまいます。
湿度が高い日は「発汗」による熱の放散がうまくいかなくなります。
よって「気温と湿度がともに高い日」は、無意識のうちに身体が勝手にやってくれる体温を下げる機能がすべてうまく働かなくなってしまうのです。これが理由で、夏に熱中症になりやすいのです。体温が下がらないので。
熱中症を予防するために。
気温と湿度が高い日は、身体が勝手にやってくれることに期待をしてはいけないのです!自分で、意識的に「伝導・対流・輻射・発汗」の熱放散機能を使って、体温を下げにかからないといけないのです!
氷を身体に当てて、伝導による熱移動をさせたり。
水風呂に入ったり、扇風機の風に当たったり、ミストを浴びたりして、対流による熱移動をさせたり。
気温も湿度も高い日は、何もしないと体温は上がり続けてしまう、ということだけでも覚えてもらえたらと思います。