熱中症の中でも、もっとも深刻で命に危険が及ぶのが「熱射病」というのは、この熱中症ドットコムでは何度もお伝えしています(何度でも言います!)。

熱射病について詳しく知りたい方は「熱中症で一番重度な『熱射病』の見極めと治療法を徹底解説!」を読んでいただきたいですが、熱射病の特徴は「深部体温が40℃以上」で「中枢神経系の機能不全」が起こること。これらのサイン・症状が見られたら、一秒でも早くケア・治療を始めなければ、命を落としてしまうこともあるとても怖いものです。

熱射病に対するケアとしてまず何よりも早くやらなければならないことが「深部体温を下げること」。一秒でも早く深部体温を39℃以下にすることが、内臓へのダメージが大きくなることを防ぎ、結果命を救うことに繋がります。

現在、深部体温を最も早く安全に、そして効率的に下げることができると言われているのが「氷風呂に全身を浸からせること(=Cold-Water Immersion)」です。

「氷風呂に全身浸かる」が今わかっているベストな方法なのですが、氷風呂がない場合、「冷たいシャワーを全身に浴びる」ことは代わりのケアとして成り立つのか?というのが、今回紹介する論文です。

大きいタブや大量の氷はなくても、シャワーを浴びる場所はあるかもしれません。最近の運動施設にはロッカールームがあったり、簡易かもしれませんがシャワーがついているところもあります。たとえシャワールームがなくても、水道があって、ホースさえあれば、いざというときに冷たい水を身体に浴びることができます。

今回の研究は、運動によって上がった体温は冷たいシャワーを浴びることでも効果的に下げることができるのか?というテーマで行われました。

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>>今回の参考文献はこちら。

ColdShowerCoolingスクショPhysiologic and Perceptual Responses to Cold-Shower Cooling After Exercise-Induced Hyperthermia

運動によって高熱になった身体は、冷たいシャワーを浴びることで生理的・知覚的にどう変化するのかを研究した、2016年に発表された論文です。Journal of Athletic Trainingより。

 

暑い環境下での運動→15分間20℃のシャワーを浴びる

シャワー身体冷却

17人(男10人, 女7人)の被験者たちは、気温(=33℃前後)と湿度(=27%前後)が調節された部屋の中で、エアロバイクかトレッドミルを使って30〜50分の激しい運動を行いました。彼らは全員「運動後冷たいシャワーを浴びる」と「運動後何もしない(=コントロール)」の2種類の実験を日にちを変えて行い、どれくらいのスピードで深部体温が下がっていくのか、がそれぞれ調べられました。

何もしないグループの実験では、運動後15分間その場で座った状態のまま。

シャワーを浴びるグループでは、運動を終えた後、ホースから出る約20℃の水を15分間浴び続けました。ホースは少しつぶしてスプレー状に噴射するようにされ、全身に満遍なく水がかけられたということです。

運動とその後のケア(=冷たいシャワーを全身に浴びる or 何もしない)の最中、被験者たちは直腸温を測定する体温計によって深部体温が測定されました。正確な深部体温を測定するためには直腸の温度を測定する必要があります。

全被験者は、運動後38.5℃以上の深部体温が計測されました。

ケアに使われたシャワーの温度が20℃である理由

運動後の身体を冷やすためのシャワーの温度は「20℃」に設定されました。この理由は「多くの運動施設のシャワーや水道から出る水の温度は20℃以上である」という調査がもとになっています。この研究が行われたアーカンソー大学周辺の運動施設にあるシャワーの水の温度は平均で約28℃、グラウンドに設置されたホースから出る水の温度は平均で約23℃だったということです。

つまり、実際の現場で氷を使わずに浴びることのできる一番冷たい水は20℃くらいであるため、より現実的な状況を作り出すために、20℃の水が使われました。

 

結論|何もしないよりはシャワーを浴びた方がいいけど...

シャワー冷却運動後熱射病

今回の研究の結論はまず、「何もケアをしないよりは、冷たいシャワーを身体に浴びたほうがより早く体温は下がっていく」ということでした。つまり、"Better than nothing."(何もしないよりは良い)ということ。

しかし、上記もしましたが、身体の深部体温を最も早く効率よく下げることができる「全身を氷風呂に浸からせる」方法と比べると、体温が下がるスピードは遅い、ということもわかりました。

熱射病のケアとして冷たいシャワーは不適切

今回の研究で、20℃のシャワーを15分間浴び続けたときの体温の下がるスピードは「1分で0.07℃」でした。熱射病になってしまった人の深部体温が42℃だと仮定すると、39℃以下の体温まで下げるのに約43分もかかってしまう計算になります。

40℃以上の深部体温がある状態で何十分もいることは本当に危険で、内臓へのダメージや、中枢神経系の機能障害が起きてしまう可能性がとても高いため、より素早く体温を下げること(=38.9℃以下まで)がとにかく重要です。

 ちなみに、全身を氷風呂に浸からせたときの体温が下がるスピードは「1分でおよそ0.22℃」と言われています(水の温度は2℃。【Proulx et al., 2003より】)。

「水の温度が高いから」というのがシャワーがダメな理由ではない

今回使われたシャワーの水の温度は20℃でした。この温度でのシャワーだから1分間に0.07℃しか下がらないのでは?もっと冷たい温度のシャワーを使えばもっと早く体温は下がりそうだし、熱中症のケアとしても充分使えるのではないか?と考える方がいるかもしれません。が、答えは「ノー」です。

同じ20℃の水温を使って水風呂に全身を浸からせると、1分間でおよそ0.19℃深部体温が下がっていった、という研究があります(Proulx et al., 2003)。つまり、同じ水の温度でも「水風呂に全身浸かる」という方法を用いることで、より素早く深部体温を下げることができるということがわかっています。

また、上記していますが、熱中症や熱射病が起こった時にすぐ使えるシャワーで、20℃よりも冷たい水が出ることはあまりないようです。研究が行われたのがアメリカのアーカンソー州であり日本ではないので一概には言えませんが、冷たいシャワーを用意するくらいなら、簡易プールなどを用意して水風呂ができるように準備しましょう。

より長時間、より広範囲で冷たい水が皮膚に触れていることが重要

より素早く効率的に深部体温を下げるためには、水の温度ではなく、より長時間、より身体の広い範囲で水が皮膚に触れていることの方が大切なようです。

シャワーを浴び続けることと水風呂に浸かり続けることを比べると、やはり風呂に浸かる方が確実に身体全体に水が触れることになりますね。これが、シャワーを浴びることが熱射病のケアとして不適切な理由となります。

まとめ

冷たい水のシャワーを浴びることは、特に夏の暑い環境下での運動をしていた後はとても気持ちよく感じるかと思います。しかしそれはあくまで気持ちいいだけで、「深部体温を下げる」「熱射病になってしまった身体の機能を回復させる」ということを考えると不適切だということがわかりました。

ただ、氷風呂がないような場所で熱中症や熱射病が起きてしまったとき、とにかく少しでも体温を下げないと!という時は、もちろん何もしないでいるよりはやるべき処置です。

救急車を呼び、意識がなくなってしまったときに備えてAEDを用意したり心肺蘇生法ができる準備を整えながら、最悪な事態を想定しつつ、とにかく救急車が来るまで少しでも体温を下げることで、命が助かる可能性を高めることができます。

できることを、やりましょう。

 

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