熱中症で一番重度な「熱射病」の見極めと治療法を徹底解説!

熱射病_熱_熱中症

熱射病は、熱中症の中で最も深刻で、重度で、最悪の場合は死に至ってしまう可能性もあります。ですが、素早く熱射病になっていると認識し、適切に応急処置をすれば、たとえ熱射病になったとしても死に至ることはありません。

今回は、熱中症による死亡事故を防ぐためにも、熱射病についての知っておきたいことの全てを徹底解説していきます。


>>参考文献はこちらです。

ACSMPSスクショ

Exertional Heat Illness during Training and Competition|American College of Sports Medicine

American College of Sports Medicineが2007年に発表した、運動中・スポーツ中に起こる熱中症についてのPosition Standです。

 

スクショ_NATA熱中症

National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Exertional Heat Illnesses

NATA(全米アスレティックトレーナー協会)が2015年に発表した熱中症に関するPosition Statementです。熱中症に関する情報が詰まっています。トレーナーは必読です!

 

熱射病とは?他の熱中症との違いとは?

熱射病_原因_症状

イントロでもお伝えしましたが、熱射病は熱中症の中でも一番深刻で重度なものです。具体的に言うと、深部体温が40℃以上となり、中枢神経系に障害が起きたり、複数の臓器がうまく働かなくなるものを指します。

運動をすると、体内では熱が発生します。この熱を身体は様々な手段で体外に放出して、体温を一定に保とうとするわけですが、気温や湿度が高い環境で運動をしていると、この体外への熱の放出がうまくいかなくなります(=身体の体温調節機能が働かなくなる)。すると、体内に生まれた熱がどんどん溜まってしまい、体温(=深部体温)がどんどん上がってしまいます。そして体温が40℃を越えると、内臓の機能に悪い影響を与えてしまい、最悪の場合、死に至ってしまいます。

「深部体温が40℃以上」と言う状態が長く続けば続くほど、死に至ってしまう可能性が高くなります。よって、一刻も早く熱射病であることを認識し、一刻も早く体温を下げることで、熱射病によって命を落とすことを防ぐことができます。

 

深部体温はどうやって測る?

深部体温は「直腸温」とも呼ばれます。つまり、直腸の温度を測定しないと、正確な深部体温はわかりません。NATAの参考文献にも、深部体温を即座に正確に得るためには、直腸温を測定することが唯一の方法である、と言っています。

直腸温はどのように測るのかと言うと、まずは直腸温を測定するための専用の体温計が必要です。また、基本的に直腸温を測定することができるのは医師や看護師といった医療従事者です。よって、一般の人が直腸温を測定することはできません。

体温は、他の部位でも測定することができますね。「脇の下」「耳」「口」「おでこ」などなど。ですが、これらの部位で測って出た体温は、深部体温とは全然違う値が出てきてしまうため、熱射病を判断する材料としては信用できないものなのです。詳しくは「運動中の正確な体温の測定方法は?重要なのは体温の測定部位」の記事に書いてあります。

 

熱射病かどうかの判断は体温には頼るな!

医療従事者しか基本的には測定できない「直腸温」を、部活動やクラブスポーツの練習中に測ることは、普通は無理です。他の部位で測定したとしてもそれは信用のできない値です。よって、体温を測ることに時間を割くのは無駄です。

下に「熱射病の症状」を詳しく載せたのでそこを見て欲しいのですが、熱射病かどうかの判断は、体温には頼らず、他の症状で判断するのが得策です。熱射病の症状で一番典型的なのは「中枢神経系の障害」と「突然倒れる・かなり衰弱する」というものです。

もしこのような症状が現れたら、それは熱射病だと判断し、救急車を呼ぶとともに一刻も早く体全体を冷やして、体温を下げましょう。

 

熱射病になってしまう原因

熱射病

熱射病だけではなく、熱中症になってしまう大きな原因としてあげられているのは以下の3つです。

  1. 気温・湿度ともに高い環境のもとで激しい運動を行うこと
  2. 暑熱馴化ができていない
  3. 基礎体力が低い(=普段運動をしていない)

熱中症対策はまず暑熱馴化から始めよう

2017.03.31

 

熱射病になる大きな原因の1つとして挙げられるのが、1)の「気温と湿度の両方が高い日」ですが、たとえ気温や湿度が高くなかったとしても、激しい(=高強度の)運動をしている時はいつでもなってしまう可能性があります。理由は、高強度の運動はそれだけ体内に熱が多く発生するため、この熱を体外に放出できなくなってしまうと、たとえ周りの環境の気温や湿度が高くなくても深部体温が上がってしまうからです。

 

上に挙げた熱射病になってしまう主な3つの原因に加えて、熱射病になるリスクが高まるのはWBGTが28℃以上の日高強度(きつい)運動を1時間以上したときです(WBGTについては、熱中症を予防するために運動前に暑さ指数(WBGT値)を調べようの記事で詳しく説明しています)。特に運動の種類については、自転車のロードレースやマラソンなど「長時間&高強度の運動」で特に起こりやすいようです。

と言っておいていきなり逆のことを言いますが、上にあげたように暑熱馴化ができていなかったり、普段運動をしていなくて基礎体力がない人は、気温が高い日ではなくても(13℃前後のときでさえも)熱射病は起こる可能性がある、ともこの論文には示されています。

 

上に挙げた熱中症・熱射病になる大きな原因に加えて、以下のものも重なると、さらに熱射病になるリスクは高まります。

  • 急に運動・トレーニングの強度を上げる
  • 暑い環境にいる時間が長くなる
  • 体内の熱を体外に放出しづらい服装をしている
  • 運動を始める前から軽い脱水状態
  • 睡眠不足
  • 栄養不足
2つ目に挙げた「暑い環境にいる時間が長くなる」は、1日だけの話ではなく「累積の効果」とこの論文では示されています。つまり、毎日暑い環境に長くいればいるほど、少しずつ体内に熱が溜まってって、熱射病になるリスクが上がるようです。

 

さらに、以下のものに当てはまる人も、熱射病になるリスクは高いです。

  • 肌の病気を持っている
  • 日焼けしている
  • アルコールを摂取している
  • ドラッグを使っている
  • 抗うつ病の薬を使っている
  • 肥満
  • 40歳以上
  • 過去に熱中症になったことがある
  • 風邪をひいている・熱がある・下痢をしている・嘔吐した

 

熱射病になると現れる症状

頭痛

以下に挙げたものが、熱射病になったときに現れる典型的な症状です。

  • 方向感覚の喪失
  • 混乱状態・無気力
  • めまい
  • 分別のない行動
  • わけのわからないことを喋る
  • イライラしている・興奮している・ヒステリーになっている
  • 歩くことができない・バランスがとれない・つまずく・よろめく
  • 突然倒れる・意識がなくなる・昏睡状態

 

この他にも、以下のような他の熱中症でも見られる症状も現れます。ですが、上にあげた症状が熱射病の典型的症状です。熱射病だと認識する際にとても重要なので、特にトレーナーや運動指導者はしっかり覚えておきましょう。

  • 脱水
  • 肌が熱くなっている(+汗をかいている)
  • 低血圧
  • 過呼吸
運動中ではない場合、熱射病になった人の肌は逆に乾燥しています(=汗をかいていない)。特に子供や高齢者の方が熱射病になった場合は、汗を全くかいていない状態のことが多いです。

 

熱射病になってしまった時に早急にするべき応急処置

水風呂

何度も書いていますが、熱射病になってしまった場合、一刻も早く応急処置を始めないと、状態はどんどん悪化し、最悪の場合は死に至ってしまうケースもあります。逆に、たとえ熱射病になってしまったとしても、素早く適切な応急処置を行えば、一週間〜1ヶ月の休養のみで何事もなくまた運動・スポーツに復帰することができます(復帰する前に医師によるチェックを受け、許可を得るべきです)。

逆に、素早く適切な処置がなされないと、数ヶ月〜1年もの間症状が残ってしまい、復帰できないというケースも大いにあります。

よって、特にトレーナーや運動指導者は、熱射病の応急処置の知識を持っておくことは必須です。以下に、誰でもできる熱射病に対する応急処置の方法をあげてみました。

 

とにかくすぐ冷やす!冷やす!冷やす!

まず何よりも1秒でも早く始めるべきなのが「全身の冷却」です。具体的に言えば、熱射病になってしまってから30分以内に深部体温を38.9℃以下にすることが目標になります。

深部体温が40度以上である時間が長ければ長いほど、脳や内臓の機能を悪化させ、最悪の場合は死に至ります。よって、熱射病とわかったら(もしくは熱射病っぽいなと判断したら)、とにかく早く身体の冷却を開始しましょう。冷却中に意識がはっきりしてくれば、その後の経過も良好になることが多いようです。

ここで言う「38.9℃」というのも深部体温(=直腸で測定された体温)なので、いわゆる普通の運動・スポーツ現場では測定できません。あくまで参考にということで。

 

全身が浸かる簡易プールやタブを用意

一番早く身体を冷却する(=深部体温を下げる)方法は「氷を入れて冷たくした水風呂に全身浸かること」です。英語ではCold Water Immersionと言われますが、この方法はEvidence categoryがAランクとなっています。Aランクというのはつまり、多くの研究でしっかり証明されているということ。深部体温を下げるのに、氷でしっかり冷やした水風呂に浸かることが一番効果的な方法と証明されています。

よって、真夏の暑い環境で運動・スポーツをする際(特に部活動やクラブスポーツ)は、必ず以下の3点を用意(もしくは事前に確認)しておきましょう。

  • 水道:全身を冷やすために水の確保は必須
  • ホース:水をためたり、熱射病患者に直接かけるため
  • 簡易プールやタブ:上写真(や下写真)のようにして全身を冷却します
  • 大量の氷:学校であれば、食堂やフィットネスジムなどに製氷機があるはずなので、そこにお願いしてみましょう。もし部活の夏合宿やなどであれば、宿泊施設にお願いして氷の確保をしてもらうのがベストかなと思います。身体全身を冷やし続けるための氷は、コンビニで買おうと思うとかなりのコストがかかってしまうので、この「大量の氷の確保」は工夫が必要であり、一番大変なところかなと思います。

 

熱射病患者は意識が朦朧としていたり、冷却中に意識を失ってしまうこともあります。よって溺れてしまわないように、冷却中は首から上は水に浸からないように気をつけましょう。また、必ず誰かが患者を観察し続けます。常にその患者と話をしていることで、意識レベルの確認ができます。

大きいゴミ箱を使って身体を冷却することもできます。意識を失ってしまった際に溺れないように、患者を支えられるようにする必要がありますが。

より効果的に体温を下げるために、少しでも肌を露出させましょう。肌に直接冷たい氷水を触れさせることで、最大限に冷却のスピードを上げることができます。
もしアメフト選手など、装備品をつけている(ショルダーパッドやヘルメット、剣道の防具や野球のユニフォームなど)場合、それらを全て脱がせてからではなく、とにかくまずは氷水に全身を浸からせて体温を下げ始めます。そして、氷水に浸かっている状態にしてから、装備品や衣服を脱がせ始めましょう。とにかく一刻も早く冷却を始めるのが最優先です。

 

氷水の温度の管理・冷やし方・冷却スピード

氷水の温度は「1.7℃〜15℃」くらいが良いと参考文献には記されています。

また、全身の冷却中の水温は、肌の表面に触れている部分から上がっていくため、氷水は常にかき混ぜましょう。かき混ぜることで常に冷たい水が肌に触れることになり、冷却スピードの促進ができます。

 

アイスバッグ・霧吹き・扇風機を体にあてる・うちわで仰ぐでは冷却スピードが遅すぎる

よく熱中症になった時の応急処置として「アイスバッグや氷で冷やしたタオルで、頭・首・わき・鼠径部(股関節の前側)を冷やす」「霧吹きで身体に水をかけて、扇風機やうちわで風をあてて蒸発させる」という方法を聞いたことがあるかと思いますが、熱射病に対する応急処置としては不適切です。理由は、これらの方法では冷却スピードが遅すぎるため。

他の熱中症に対する応急処置としては悪くありませんが、熱射病の応急処置としては、とにかく1秒でも早く深部体温を下げることが必要なので、やはり氷水に全身を浸からせるという方法を行えるよう、事前に準備しておきましょう。

 

どうしても氷風呂が用意できないときは?

氷水のタブに全身を浸からせる方法が最も効率的でベストな方法です。できる限りそれができるように準備をするべきです。ですが、どうしても準備できない場合は「氷水で冷やしたタオルを全身にあてる(あて続ける)」「なるべく冷たい水を全身にかけ続ける(ホースなどで)」という方法が代替案として挙げられます。

ですが何度も言いますが、氷水に全身を浸からせるという方法と比較すると、やはり効率的ではないということを覚えておきましょう。

 

深部体温(直腸温)を測定する

これは上記しましたが、誰でもできることではないので、参考までに。

熱射病であるかどうかの判断をする上で、深部体温(=直腸温)を測ることは一番早くて正確な方法です。ですが、医療従事者でない限りは直腸温の測定は日本ではできません。よって、もしスポーツ大会などを真夏の暑い環境で行う場合は、できる限り医療従事者(医師や看護師)を呼んで、熱射病が出た場合にすぐ直腸温を測定できる環境をあらかじめ整えておくことが重要かと思います。

 

熱射病を予防するためにできること

水分補給

熱射病を予防するためにできることをここから挙げていきます。

 

こまめな水分補給

水分補給に関しては、たっぷりなボリュームで「【まとめ】最新の科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給」の記事に書いたので、詳しくはこちらをご覧いただきたいのですが、熱中症になる原因の1つが「脱水(=体内の水分が足りなくなること)」です。脱水状態にならないように、こまめに水分を補給しましょう。水分を補給することで、体温を下げる効果もあります。

ですが、水分補給をしていれば熱射病にならないかと言われれば、もちろんそんなことはありません。脱水状態になっていなくても、高強度の運動によって急激に体内に熱が産まれてしまうと、体温が急上昇して、熱中症→熱射病になってしまいます。

 

暑熱馴化の期間をしっかりつくる

人間の体はちゃんと環境に順応します。暑い環境にいたら、なんとかしてこの暑い環境でも快適に過ごせるようにしようと、汗をたくさんかいて体内の熱を下げようとしたり、その汗で失う塩分の量もだんだん少なくなっていきます(人間の体って本当にすごいです)。ですが、順応するのには少し時間がかかります。NATAが発表した暑熱馴化に関する論文では14日間準備期間をつくりましょう、とあります。

熱中症対策はまず暑熱馴化から始めよう

2017.03.31

 

部活動の顧問の先生や、クラブスポーツの監督・コーチなどは、しっかり練習の時間や強度をコントロールしましょう。徐々に運動の強度を上げていき、徐々に運動する時間を長くして、身体を暑さに慣らしていきます。熱射病は、暑い環境での運動し始め(初日〜4日目くらい)に一番なりやすいので、特に最初は体調を気にしながら、休憩を多めにとりながら運動をしましょう。

 

普段から定期的に運動をする

熱中症になってしまう大きな原因の1つとしてあげた「基礎体力が低い」を改善するために、定期的に運動・トレーニングを行なって基礎体力を高めましょう。普段から運動をして筋肉をつけ、体力をつけ、心肺機能を高めておくと、暑い環境で運動をした時も身体がうまく暑さに順応してくれます。

 

まとめ

スポーツ現場での熱射病の対応でよく言われるのが「Cooled First, Transported Second(最初に冷やせ!搬送はその次!)」です。搬送(救急車を呼んで、病院へ送ること)ももちろん重要なのですが、それ以上にとにかく重要なのが「冷やす(=深部体温を下げる)」こと。冷却を始めてから(もしくは同時に)救急車を呼びましょう。

熱射病の処置も、事前に準備さえしておけば、別に難しいことではありません。いつ熱射病が起きても対応ができるように、トレーナーをはじめ、運動指導者や周りで支えるスタッフは、事前の準備と対応の準備・リハーサルをしっかり行いましょう。

 

追記(10/27/2017)

全種類の熱中症について記事アップデートしました。一度読んだという方も、ぜひもう一度読んでみてください。

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ABOUTこの記事をかいた人

2013年からBOC−ATC(米国公認アスレティックトレーナー)として活動中。大学時代に後輩が熱射病によって命を落としたことから、熱中症について調べるようになりました。「予防のプロ」として、熱中症に関する正しい情報を伝えていきます。