「水分補給」と聞くと、多くの人は「水を飲む」ことを考えると思いますが、私たちは普段から、水分は飲んで摂るだけではなく、食べて摂取もしています。
あくまで目安ですが、1日の食事で、炭水化物・たんぱく質・脂質・野菜・フルーツなどをバランスよく2500〜3000kcalほど食べた場合、これらの食べ物から同時に約1リットルもの水分を摂取しているということです。
運動前や運動後、もしくは1日の生活の中でこまめに水を飲むことはもちろん大切ですが、1日3回(+α)の食事をバランス良く食べることが、脱水を防ぐ一番基本的で大切な方法であり、結果として熱中症の予防にも繋がります。
熱中症やパフォーマンス低下の予防のために、特に暑い夏に意識して食べたい、身体を水で潤すことに適した食材たちを紹介します。
>>今回の参考文献はこちらです。
1. American College of Sports Medicine Roundtable on Hydration and Physical Activity: Consensus Statements
2005年に行われたアメリカスポーツ医学会の会議による合意文書です。
2. Contribution of fruit and vegetable intake to hydration status in schoolchildren
4〜10歳の子供を対象に、野菜とフルーツを多く摂取した場合としない場合の体内水分量について比較された研究です。
3. Dietary intake according to hydration status in 9-10 year-old soccer players
9〜10歳のサッカー選手を対象にして食事と体内の水分量の関係についての研究です。
4. Nutrition & Beverages|European Hydration Institute
水分補給に関する情報が詰まったサイトです。英語ですが、とても良い情報源だと思います。
5. Promoting fruit and vegetable consumption around the world|World Health Organization
WHO(世界保健機関)による、食事での野菜・フルーツの摂取に関する記事です。
野菜とフルーツを多く食べた人は体内の水分量が多い
早速結論です。「野菜・フルーツの摂取量」と「体内の水分量」の関係を研究した参考文献は2つ2, 3。その2つとも子供(4〜10歳)を対象にした研究でした(大人を対象にしたこのような研究が見つかりませんでした)。
これら2つとも結論として、「野菜やフルーツを多く摂っていた人ほど体内の水分量は多く、脱水のリスクは低かった」と報告しています。
さらにRodriguezらの研究3には、「普段の野菜とフルーツの摂取量が、その人の水分量を予測する要素となる」とも示しています。
つまり、普段から野菜やフルーツを多く摂取している人は、体内の水分量は多いだろうと予測でき、逆を言うと、普段あまり野菜やフルーツを食べていない人は、身体は脱水状態にあるかもしれないと予測できるだろう、ということです。
適切な水分補給は、様々な病気や生理的障害になるリスクを減らす
適切に水分を補給して体内の水分量を常に満たしておくことは、熱中症の予防のためにはもちろんですが、他の病気や生理的障害になることも予防することができます。
WHO(世界保健機関)5は、1日最低400gの野菜・フルーツを摂取することで、生活習慣病などを予防することができる、と推奨しています。
参考文献であがっていた、リスクを減らすことができると考えられるものは以下の通りです。
- 頭痛
- 便秘
- 尿路結石
- 腎臓の働きの機能低下
- 心臓の病気
- 肥満や糖尿病
「頭痛」や「便秘」に慢性的に悩んでいる方は、もしかしたら水分補給が足りないことが原因かもしれません。
この熱中症ドットコムの記事では何度も登場していますが、水分補給が足りないと(=身体が脱水状態になると)、運動パフォーマンスの低下が起きます。適切な水分補給は、パフォーマンスの低下も防ぐことができます。
知らないだけで、自分は今「脱水状態」かも?
Rodriguezらの研究3では、30人の9〜10歳のサッカー選手が被験者として参加し、研究を始める際に、まず体内の水分量が計測されました。
その結果、研究の最初の段階で、それまで普通に日常生活を送ってきた30人の子供のうち、13人が「すでに脱水状態である」と判定されました。
運動をしている最中に熱中症になってしまった人がよく言うセリフの1つとして、「しっかり水分は摂ってたのになぁ」というものがあります。そんな人は、運動を始めた時点ですでに脱水状態にあった可能性があります。
もちろん熱中症は脱水だけで起こるものではないですが、すでに脱水の状態から運動を始めるのは、熱中症になるリスクが高い状態で始めていることになり、さらには、パフォーマンスも低下した状態で始めているということになります。
「運動をするとき」や「汗をかいたら」水を飲むのではなく、普段から体内に水分を補給しておくことがとても大切なのです。
「食べる水分補給」に適したオススメ食材たち
参考文献の1つであるEuropean Hydration Instituteによる記事4を参考にして、「食べる水分補給」に適したものをいくつか紹介します。
1)サラダには「きゅうり」「レタス」「赤キャベツ」「にんじん」「ほうれん草」を
ここにあげた5つの野菜はすべて、約90%以上が水分でできています。「きゅうり」は約96%が水分、「赤キャベツ」「ほうれん草」は約92%が水分、「にんじん」「レタス」は約90%が水分でできているようです。
すべて生でも食べられる食材なので、ぜひ冷蔵庫に常備しておいて、適当に切ってサラダにしてモリモリ食べてください。
2)フルーツもたくさん食べよう!ベリー系がオススメ!
フルーツは水分と栄養の宝庫です。ぜひスーパーに行ったらフルーツを買いましょう。
基本的にはフルーツであればどれでも水分量は多いので、好きなものを食べれば良いと思いますが、オススメはベリー系。「ストロベリー(いちご)」「ブルーベリー」「ラズベリー」「クランベリー」など。ラズベリーとブルーベリーは約85%が水分だということです。
他には「メロン」「グレープフルーツ」「ぶどう」「桃」「梨」「オレンジ」「りんご」も、水分量の多いフルーツとして挙げられています。
3)ヨーグルトはたんぱく質源としてもオススメ
ヨーグルトは約75〜85%が水分です。上で挙げたフルーツを入れて一緒に食べれば栄養バランスもかなりよく、朝食にも、間食やおやつにも、運動前後の水分&栄養補給にも最適です。
4)野菜スープで水分も栄養素も丸ごと補給!
特に暑い夏場で食欲がないときは、スープにすると栄養も水分もいっぺんに補給できて良いですね。
1)で挙げた野菜はもちろんオススメですが、他にも「なす」「ブロッコリー」「トマト」「セロリ」「かぼちゃ」「たまねぎ」も水分が豊富な野菜。スープと相性が良いものばかりなので、ぜひ常に冷蔵庫にストックしておきましょう。
そして、料理するのがめんどくさいな〜というときは、冷蔵庫にある野菜を全部鍋に突っ込んでスープにして、まるっとすべて食べて飲んでしまいましょう。
5)魚&シーフードを主菜にして水分を補給せよ!
肉ばかりではなく、魚もぜひ食べましょう。肉と魚を比べると、約40〜65%が水分である肉(牛・豚・鶏・羊)に対して、魚&シーフードは約65〜80%が水分です。
魚・お寿司・お刺身・海鮮丼・シーフードサラダなどなど、特に夏場は積極的に魚やシーフードを食べて、美味しく栄養と水分を補給してください。
まとめ
「水分補給」について調べると、多くのサイトや記事では「◯◯分おきに△△△mLの水分を飲みましょう」など、水を飲む量やタイミングについて示されていることが多いです。
この「こまめに飲む」ことは本当に大事で、一気に飲んでも身体にしっかりと補給されず、そのままおしっことして出てしまい、結果として「水分補給」にはなりません。
ですが、飲むことばかりではなく、普段の食事も少しだけ意識してみましょう。
特に夏は、野菜やフルーツ、魚やシーフードなどの水分を多く含む食材を意識して食べましょう。外食でも、この記事で挙げた食材が含まれている定食などを積極的に注文できると良いですね。
身体に水分が常に補給された状態をキープすることができ、結果として、脱水状態で外出したり、運動を始めたりといったことがなくなり、熱中症を予防することができます。
子供の両親や運動の指導者は、ぜひ運動時の水分補給だけではなく、普段の食事についても、子供・選手にしっかりと指導をしてください。「食べて水分補給」を、ぜひ実行していただけたらと思います。