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楽天イーグルス管理栄養士の長坂さんから学ぶ暑熱環境下での栄養サポート

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今回の記事では、2020年12月6日に行われた「熱中症予防のための最新知識」のセミナーの中で、プロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」で管理栄養士をされている長坂聡子さんがお話してくれた「暑熱環境下での栄養サポート」の内容がとてもおもしろかったので、運動指導者やトレーナー、選手自身も知っておくべき知識をいくつかシェアしたいと思います。

長坂さんが特に夏に起こりやすい問題として挙げたものの中から、今回の記事では「夏バテ」「熱中症」「疲労」にフォーカスしていきます。

これらの問題は、トップアスリート集団である楽天イーグルスの選手達にもよく起こるということ。

実際に現場でどう対処しているのかを具体的に紹介してくれたので、今日から使える知識として、覚えておくべきものを解説します。

夏バテは「なる前」から対処!なってからではもう遅い

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夏バテとは「夏の暑さによる自律神経系の乱れに起因して現れる様々な症状」のこと。

具体的には「食欲がなくなる」「全身の倦怠感」「眠れなくなる」などが主な症状です。

長坂さんは、夏バテは「暑くなってからの対応ではもう遅い」と言います。

気温が25℃を超えてきたら、選手たちの「食事」「水分」「体重変動」に注目し、夏バテにならないカラダづくりを始めるそうです。

夏バテを予防するために長坂先生が実際に現場で工夫しているというのが「食欲を増加させる」ことでした。

食欲を増加させるために行っている3つのこと

長坂さんが楽天の現場で実際に行っていることとして紹介してくれたのが以下の3つです。

1)試合前の食事前に「スポーツドリンク以外の甘い飲み物」は禁止

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野球は1試合約3時間という長時間かかるスポーツのため、試合前には食事をしっかり摂ってエネルギー補給をすることが大切です。

ですが、その食事前に「甘い飲み物(ジュース・炭酸飲料など)」を飲んでしまうと、血糖値が上がって満腹感が出てしまい、充分な食事量がとれなくなってしまいます。

「甘い飲み物でも炭水化物は摂取できるからエネルギー補給もできるじゃないか」と思う方もいるかもですが、やはり炭水化物だけではなく、その摂取したエネルギーをしっかり使うためにも、たんぱく質や脂質、微量栄養素も、しっかり摂取する必要があります。

甘い飲み物を飲んでしまうと、満腹感から必要な栄養素を充分に摂取できなくなってしまい、それが何日も続くと、エネルギー不足や栄養不足から、夏バテにつながってしまうということです。

楽天の選手が「甘い飲み物や炭酸飲料禁止」なのかというと、そういうわけではなく、どうしても飲みたい場合は「練習・試合後のリカバリー」として飲むならいいよ、と伝えているそうです。

2)食事の「見た目」を減らす

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食事の際に「見た目の量」が多く見えると、それだけでお腹いっぱいになってしまって(こんなに食べれない、、、)というメンタルになってしまうことがあるということ。

よって暑い時期になると、長坂さんは食事を提供してくれる業者にお願いして「通常の8割程度」の量に変更してもらうそうです。

また、普段「おにぎり」を用意しておくということですが、おにぎりの量も、通常は「1個100g」のところ、夏場は「1個60g」という小さなおにぎりを用意するそうです。

100gのおにぎりだと1個しか食べられないけど、60gのおにぎりだと2個食べられるとなり、結果しっかりエネルギーを補給できるようになったということ。

更に、夏場は「食べやすい麺類を増やす」ことや、麺類も「冷たいもの」にしたり、麺自体も「細麺」にして、疲れていても、食欲が減退気味でも、より食べやすくしてエネルギーをしっかり補給してもらえるように工夫していると言います。

こういうちょっとした工夫で、食事の摂取量が変わるって、面白いですね。

3)食事前に「冷たいシャワーや水風呂」で体を冷やす

体温が高い状態だと食欲がわかない、ということ。

よって、食事前に冷たいシャワーを浴びてもらったり、水風呂に入ってもらって体温を下げる(運動前の状態に戻していく)ことで、食欲を戻してから、しっかり食事を摂ってもらうことが大切です。

熱中症予防は「体重のチェック」と「おしっこ」

長坂さんがスポーツ現場で実際に行っているのが「練習前後での体重測定」ということです。

練習前後の体重測定+練習中の水分補給量をチェック

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練習前と練習後の体重を測定し、練習中に摂取した水分量を記録しておくことで、自分が練習中にどれくらい水分を失ったのかがわかります。

  • 失った水分 = 汗・おしっこ(便・呼吸)
  • 得た水分 = 水分補給

たとえば、練習前の体重が「60kg」で、練習後の体重が「59kg」で、練習中に全部で「500ml」の水分を摂取していたとします。

練習中に失った水分は「体重減少量+水分摂取量」なので、全部で「1.5kg」を失っていたということになります。

つまりこの人は、もう1リットルほど、練習中に水分を摂取すべきであるということになりますね。

これを何度か行っていくと、選手は、これくらいの強度の練習で、これくらいの時間練習をすると、自分はどれくらい水分を失うのかがわかるため、自分は練習中にどれくらい水分を摂取すればいいのかもわかってきます。

練習中にどれくらい水分摂取を行ったかをチェックするためには「目盛りのついたウォーターボトル」を使うとわかりやすいです。

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長坂さん曰く、同じ環境で、同じ練習内容で、ほぼ同じ水分摂取量だったとしても、体重の減少率は大きな差が生まれるということ(=発汗量は個人差がすごくある)。

ちなみに体重減少率は「(練習前の体重 − 練習後の体重)÷ 練習前の体重 × 100」で求めることができます。

先程の例を使用すると、「(60−59)÷ 60 × 100 = 1.666…%」となります。

詳しくは「【まとめ】最新の科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給」の記事を読んでいただきたいですが、ヒトは「体重の2%の水分」がカラダから失われると、運動パフォーマンスが低下していくとともに、汗をかく量も減ってしまうため、熱の放散能力も低下して、深部体温が上昇し続け、熱中症になってしまう、ということになります。

練習前と練習後で、できるだけ体重が変わらないように水分摂取をすることで、ずっと高い運動パフォーマンスを発揮できるとともに、熱中症の予防につながります。

おしっこは「色」だけを見ずに「量」と「回数」もチェック

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水分補給が足りているかどうかをチェックする方法として「おしっこの色を見る」というのは、このサイトで何度も紹介しています(詳しくは「おしっこの色を見れば脱水状態かどうかがわかる」の記事をご覧ください)。

ですが長坂さん曰く、おしっこの「色」だけを見ていてはダメだということ。

理由は、「栄養ドリンク」「エナジードリンク」「ビタミンB群が入ったサプリメント」を摂取すると、カラダに吸収されなかったビタミンB2がおしっこと一緒に排出されることで、たとえ脱水状態でなくてもおしっこの色が「濃い黄色」になってしまうから。

つまり、これらのものを摂取すると、おしっこの色は身体の脱水状態をチェックするツールとして信頼できなくなってしまうのです。

よって長坂さんは、おしっこは「色」だけではなく「1回で出すおしっこの量」や「おしっこに行く回数」にも注目すべきということ。

数時間もおしっこに行っていなかったり、トイレに行ってもおしっこの量が少ない場合、それは脱水状態を示しています。

甘い飲み物を飲みすぎると疲労がたまる

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疲労回復のためにはバランスの良い食事をとって栄養を摂取することが重要なのは言わずもがなですが、気をつけたいのが「清涼飲料水や炭酸飲料の飲みすぎ」だと言います。

清涼飲料水や炭酸飲料には糖分が含まれているので、炭水化物は摂取できます。

炭水化物は主要なエネルギー源なので、摂取するべき重要な成分なのですが、過剰に摂取してしまうと、この炭水化物を代謝するために大量の「ビタミンB1」を使ってしまうということ。

ビタミンB1は疲労物質を除去してくれる重要な栄養素の1つのため、これらの甘い飲み物を飲みすぎると、疲労物質が除去されずにたまってしまい、結果「疲れがとれない」となってしまいます。

「糖分が必要だから」という理由で飲みすぎると、疲れがとれずにだるくなってしまうので要注意です。

夏場の水分補給に適した飲み物は?

長坂さんは「炭水化物とナトリウムが含まれた飲料」を選んで飲むべきと言います。

具体的には、100mLあたり「炭水化物が3〜8g」「塩分が0.1〜0.2g(ナトリウムが40〜50mg)」含まれている飲み物を選ぶことで、エネルギー補給や吸収がスムーズにいくということです。

ぜひ飲み物を買うときは、栄養成分をチェックしてみましょう。

よく「運動中は甘いものを飲むと口がベタベタするから飲みたくない」という人がいますが、だからといってスポーツドリンクを「薄める」のはオススメしないということ。理由は「吸収が悪くなってしまう」から。運動中もできる限りそのまま飲み、ベタベタがイヤな場合は、スポーツドリンクを飲んだ後に水を飲んでお口直しをする、のが良いということです。

アイススラリーの摂取で深部体温を下げる

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ここ数年、深部体温を効率的に下げるとして多くの研究が行われている「アイススラリー」は、楽天球団でも積極的に利用されているということです。

長坂さんは選手たちに、アイススラリーを摂取する「タイミング」と「量」について、以下のように行っているとのことです。

  • タイミング:練習・試合の「30分前」までに摂取する
  • 摂取量:体重1kgあたり「6.8〜7.5g」

もし体重が50kgなら約350g、70kgなら490gのアイススラリーを、練習や試合の30分前までに摂取する、ということになります。

結構量が多いので、開始2時間ほど前からこまめに摂取していく必要があります。

私達の身近にあるのは、大塚製薬のポカリスエットアイススラリーだと思います。コンビニや薬局で購入したことがある方もいると思います。

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楽天球団は、アイススラリーを作る専用マシーンを利用しているということで、りんご味のジュースやアセロラ味のジュース、カルピスなどをアイススラリーにして、練習前や試合中などに飲んでいるということです。

アイススラリーについては「身体を “内側” から冷やすアイススラリー摂取で熱中症を予防する」の記事で詳しく解説しています。ぜひこちらもお読みください。

まとめ

「熱中症予防」というとよく挙がるテーマとして「水分補給」があります。

もちろん大事なのですが、それと同じように重要なのが「エネルギー摂取=食事をしっかり食べること」です。

練習中の水分補給はこまめに意識してやるけど、練習前に食事をとってエネルギー補給をしなければ、エネルギー不足で熱中症になってしまいますし、練習後に使ったエネルギーを補充しなければ疲れがとれず、次の日の練習を万全の体調で行うことができません。

しっかり食事をとれないと、エネルギー不足で夏バテになってしまったり、よく眠れなかったりと、悪循環が生まれます。

暑い夏でも万全の体調で運動ができるように。参考にしていただければと思います。

Written by
ATSUSHI