熱中症による事故を防ぐための熱中症情報サイト

職場・労働中の熱中症対策!熱中症を予防して働きやすい環境を

熱中症に関する論文や研究を探すと、運動中・スポーツ中の人を対象にしたものが多く出てきます。現に私もアスレティックトレーナーとして大学スポーツで活動をしていたため、スポーツ中の熱中症に関する文献を読むことが多かったです。

しかし、日本救急医学会が2015年に発表した熱中症診療ガイドラインによれば、30〜60歳くらいの男性は屋外での仕事中に熱中症になることが多い、と示しています。

今回参考にしている文献である、厚生労働省が発表した「職場における熱中症予防対策マニュアル」には、おおよそですが毎年約20人ほどの方が、職場で仕事中に熱中症になり、そのままその熱中症が原因で命を落としてしまっている、と報告しています。

今回は、職場での仕事中・労働中に熱中症になってしまう原因は何か。そして、どう予防したら良いのか、その対策方法を紹介していきます。


>>参考文献はこちらです。

スクショ_職場熱中症予防

職場における熱中症予防対策マニュアル|厚生労働省
厚生労働省によって発表されている、職場において発生する熱中症の症状・予防方法・緊急時の救急措置・熱中症に事例などがまとめられたマニュアルです。

熱中症になりやすい職場って?

屋外での仕事中に熱中症になりやすくなってしまう原因を紹介していきます。

環境

これは仕事中に限らずですが、前提として熱中症になりやすい環境というのは「気温が高い」「湿度が高い」「日差しが強い(=輻射熱が強い)」「風がない」という状態のことです。

これら4つの条件がそろった環境では、体内の熱を体外へ放出する機能がほとんど機能しなくなってしまいます。

ヒトが持つ体温調節機能のメカニズム|熱の移動と放散で体温を下げる」を読むとより熱中症になるメカニズムが理解できると思います。

作業

作業_環境_服装_労働

1)服装

どんな仕事をしているかによりますが、まずは服装。

工事現場などで働く方は、夏でも長袖長ズボンで、ヘルメットを被っていたり、ブーツを履いていたり、手袋をして作業をする人もいるかもしれません。

身体を守るように作られた衣服は基本的に通気性が悪いことが多いため、汗をかいてもその汗が蒸発せず、熱が身体の外に出ていきづらいため、ただ体内の水分を失っているだけになってしまい、脱水症状〜熱中症になりやすいです。

2)作業する時期

作業する時期も重要なファクターです。

「気温の高さ」が熱中症に大きく影響するということはさっきも言いましたが、急に暑くなる梅雨があけた時期は、気温とともに湿度も上がるため、特に熱中症になりやすいと言われています。

3)作業時間

労働中_休憩

できれば一日の中でも特に暑い時間帯(=10時〜17時)に外で作業をしないのが一番ですが、そんなわけにもいかないと思います。よって大事になってくるのが休憩をこまめにとるということ。

休憩をとらずに長時間ぶっ通しで作業をしてしまうと、体内に熱がどんどんたまってしまったり、疲労も重なって、熱中症になりやすくなります。

こまめに休憩をとり、休憩中はできるだけ衣服を脱いで肌を風に当てて、汗を空気中に蒸発させて体内の熱を放散しましょう。

さらに、汗で出ていってしまった水分+塩分を休憩中にしっかり補給しておくことも大切です。

その人の健康状態

仕事の現場・環境だけではなく、自分自身の体調や健康状態も大きく熱中症のなりやすさに影響を与えます。

まずは「糖尿病」。血糖値が高いことで、尿と一緒に糖分も出ていってしまい、脱水症状になりやすくなってしまいます。脱水症状は熱中症になってしまう大きな原因の1つです。

次に「高血圧」や「心疾患」。高血圧や心疾患を持つ人は、水分や塩分が尿によって出ていきやすくなる薬を飲んでいることが多く、これも脱水症状になりやすくする原因の1つです。

腎不全」を持つ人は、医師によって塩分をあまりとらないように言われることがあり、塩分不足によって熱中症になりやすくなってしまうことがあります。

ここまでは病気を挙げてきましたが、単純に「風邪を引いている」「熱がある」「体調が悪い」「寝不足」「下痢」「朝ごはんを食べていない」などの体調不良も熱中症になりやすくなる原因です。

さらにこれは健康状態ではないですが、「肥満」も熱中症のリスクファクターの1つです。

どんな仕事をしている人が熱中症になりやすい?

労働中_建設業

ちょっとデータが古いのですが、平成10年〜19年に起きた熱中症による死亡事故の約70%は建設業で起きています

ついで製造業が約11%、あとは運送業、警備業、林業、清掃業などが3〜5%となっています。

「男性」と「年齢」も熱中症になる原因と言われている

また、仕事中に熱中症になってしまう(4日以上仕事を休まなければいけないほどの重症)人の年齢は30〜50歳代に多いです。

さらに、仕事中の熱中症によって死亡してしまった人はすべて男性だったということです(平成10〜19年のデータです)。

熱中症になりやすいリスクファクターはたくさんありますが、その1つに「男性」というのがあります。男性は熱中症になりやすいという研究結果が出ています。

いつ熱中症になりやすい?

まずは、何月に一番熱中症は起きているのか。

ある程度予想がついている方もいるかと思いますが、熱中症は5月〜9月のいわゆる夏の始まり〜夏の終わりにかけて多く発生しています

熱中症によって人が亡くなってしまうという事故や、熱中症によって4日以上職場を休まなければいけなくなるほどの重症になった人が多いのは、圧倒的に8月です。

次に、何時に熱中症はよく起こってしまうのか。

一番多く発生している時間帯は午後の2時〜4時です。

また、意外に多いのが朝の9時〜11時。作業を開始してすぐに熱中症になってしまうケースもよくあるようで、日中だけ気をつければ良いわけではなく、朝や夕方にも重度な熱中症の事故は発生している、ということを知っておきましょう。

仕事中の熱中症を予防するためにできること

工事_作業_現場

仕事中に熱中症になってしまう原因がわかったところで、では予防するためには何をすればいいのでしょうか。

今回は特に、ずっと外で作業をしなければならない方向けに考えてみました。

暑さ指数(WBGT)を測ってその日の危険度を知っておく

暑さ指数(WBGT値)というのは「気温」「湿度」「風」「輻射熱」の影響を総合的に評価して、その日の熱中症危険度を数値化してくれるものです。

これを知って、特に暑さ指数の高い危険な日は、いつもよりも休憩をとる頻度を多くしたり、休憩時間はなるべく日陰や涼しい場所でとるようにしたり、水分を多めに用意しておいたりなど、事前の対策に役立てることができます。

WBGTについては「熱中症を予防するために運動前に暑さ指数(WBGT値)を調べよう」の記事をお読みください。

環境省のウェブサイトで、その日の暑さ指数が毎日アップされるので、わざわざ暑さ指数を測定する装置を購入しなくても大丈夫です!ぜひ利用しましょう!(夏前後の時期のみ)

WBGTが毎日発表される『熱中症予防情報サイト』を利用しよう!」でこの環境省のウェブサイトの使い方を解説しています。

作業内容とWBGT値で熱中症の危険度がわかる

同じWBGTの値でも、そこでやる作業によって危険度は変わってきます。下の表は、作業内容と、その作業をやるにあたって危険度が高くなるWBGTの値を示しています。

WBGT×作業内容表

例えば、その日のWBGT値が30℃の場合は、軽い手作業やゆっくり歩いているだけでも(=低強度)熱中症になってしまうリスクが高いです。

地面を掘ったり重い材料を運ぶような作業をする(=高強度)場合は、WBGT値が23〜25℃以上のとき熱中症になるリスクが上がります。

労働環境のWBGT値を下げるためにできること

上にあげたような「休憩頻度を多くする」「なるべく涼しい場所で休憩をとる」「水分の用意」の他に何ができるでしょうか。

1)簡易的な屋根を作る

もしできるのであれば、長い時間作業する場所に簡単な屋根(テントや簡易小屋など)を作って、その作業場所を日陰にしましょう。直接太陽の日差しが当たらないだけで、身体への負担はかなり軽くなります。

2)巨大な扇風機を用意する

風を身体に当てることで、汗が肌から蒸発する(=体温が下がる)ことを促進します。

身体を冷やすことができるものを用意しておく

洗顔_冷やす_休憩中

体温が上昇したままだと、熱中症になってしまいます。よって、簡単に身体を冷やすことができる氷や冷たいおしぼりを用意できたらいいですね。

休憩の時に首を氷で冷やしたり、顔や体を冷たいおしぼりでふくことで体温を下げることができます。簡易シャワーや水風呂などが用意できればかなりベターです。

もし近くに公共施設や商業施設などの空調の効いた場所があったら、休憩は室内の涼しい場所で取りましょう。少しでも涼しい場所に行くことで、体温が下がり、身体の疲労度も軽減されるでしょう。

水分は、喉が乾いてなくてもとっておく

「喉が乾いている時はすでに脱水状態が始まっている」というようなことを聞いたことはありませんか?これは実際に研究でも証明されています。

よって、喉がかわいている・かわいていないに関係なく、休憩時間のたびに定期的に水分と塩分をとっておきましょう。

年をとればとるほど、身体の脱水状態を知らせる「喉のかわき」が出てくるのが遅くなります。詳しくは「熱中症による高齢者の死亡事故を防ぐために知っておくべきこと」の記事をご覧ください。

まとめ

なかなか仕事現場の環境を変えるというのは難しいかもしれませんが、少しでも働きやすい快適な環境を作ることは、作業を効率よく進めることにも繋がります。熱中症によって倒れてしまって1人分穴を開けてしまったら、作業は大幅に遅れてしまいます。

より良い環境で、より良いコンディションで、100%のパフォーマンスを発揮できるように、熱中症を予防していきましょう。

Written by
ATSUSHI
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