熱中症による事故を防ぐための熱中症情報サイト

熱中症による高齢者の死亡事故を防ぐために知っておくべきこと

高齢者_熱中症_夏_予防

ここ数年、高齢者の方が熱中症によって命を落とすというニュースが多く聞かれるようになってきました。その理由は、年を重ねることによって、体温を調節する身体の機能が衰えてしまうから。

熱中症による高齢者の死亡事故を防ぐために、私たちが知っておくべきことを紹介していきます。


>>今回の参考文献はこちらです。

熱中症診療ガイドライン2015

熱中症診療ガイドライン2015|日本救急医学会
日本救急医学会により2015年に発表された、熱中症の発生条件や診断、予防法などが記載されているガイドラインです。

 

スクショ_日本生気象学会

「日常生活における熱中症予防指針 Ver. 3 確定版|日本生気象学会」
日本生気象学会によって公表された熱中症の予防指針です。

 

 

熱中症によって多くの高齢者は亡くなっている

高齢者_熱中症_夏

少し前の情報になってしまいますが、2013年に熱中症が原因で病院を訪れた人の数は40万人以上と報告されています。このうち、184,834人(=45%)が65歳以上の高齢者と、熱中症によって病院に来た人の約半分は高齢者でした。

さて、熱中症によって病院に来た約40万人のうち、その中で入院を必要とした方は35,571人。さらにこの中で死亡してしまった人は550人ということです。さらに問題はここから。この死亡してしまった550人のうち、474人(=死亡者の86%)が65歳以上の高齢者だったのです。

このデータから、熱中症によって病院に来た人も、死亡してしまう人も、高齢者の割合が非常に多いことがわかると思います。

高齢者は日常生活で熱中症になる

高齢者_家_熱中症

熱中症というと、暑い夏に外出しているときや運動をしているときになるもの、という印象が強い人もいるかもしれません。しかし、高齢者が一番熱中症になるのは「屋内や住宅内で、なんでもない日常生活を送っているとき」です(=これを「非労作性熱中症」と言います)。

2010年に行われた厚生労働省の人口動態調査によると、高齢者の死亡の45.8%は「家庭」で起きています。家の中だから安心とは決して思わず、熱中症シーズンはどこにいても熱中症になる可能性がある、ということを頭に入れて起きましょう。

日常生活で起こる熱中症のことを「非労作性熱中症(ひろうさせい熱中症)」と言います。そして、スポーツや仕事などの活動中に起きる熱中症を「労作性熱中症(ろうさせい熱中症)」と言います。

非労作性熱中症の特徴

非労作性熱中症で一番怖いのは「日常生活の中で徐々に熱中症になっていく」というところです。

労作性熱中症は運動・活動中に起こるので、比較的短時間で進行が進みます。よって「あっ、これは熱中症っぽいな」と気づくことが割と早くできるため、治療もすぐに開始でき、軽い症状でおさめることができます。しかし非労作性熱中症は日常生活で徐々に進行するため、周りにいる人が気づきにくく、気付いた時にはかなり重症で…ということが多いです。

高齢者の熱中症は「屋内」での発症がとても多いのが特徴です。

なぜ高齢者は熱中症になりやすいのか

歳をとると、人の身体が持っている様々な能力が衰えてきてしまいます。その能力の衰えが、高齢者を熱中症になりやすくしています。1つずつ見ていきましょう。

「暑い」と感じにくくなる(=温度感受性の低下)

高齢者_夏_暑くない

人は歳を重ねていくと、皮膚にたくさんある「温度センサー(=温点:暑さを感じる場所)」がうまく働かなくなります(=温点の数が減る)。よって、本当は身体は暑くて体内に熱がたまっているのに、身体が「暑い」と感じにくくなっているため、体内の熱を体外へ放出するための皮膚の血流量を増やす機能や汗をかくという身体の機能がうまく働きません。このような機能のことを自律性体温調節と言います(下で少しもう詳しく説明します)が、この自律性体温調節の機能がうまく働かないため、熱中症が起きてしまいます。

また、この温度センサーの働きの鈍さは、のどの渇きを感じにくくもさせてしまうため、水分補給が遅れてしまい、より深刻な熱中症になってしまう、ということもあります。

熱を体外へ放出・放散する能力が低くなる

高齢になってくると、自律性体温調節がうまくできなくなるということは上記しましたが、その体内の熱を体外へ放出させるために起こる皮膚の血液量を増やす」「汗をかく」という機能自体も、低下します

つまり、例えば、若い時には皮膚の血液量を1から10まで増やせた人が、歳をとると1から5までしか増やせなくなる、ということです。そうすると、体内の熱を体外へ放散する量も半分になってしまうため、体に熱がたまりやすくなってしまい、深部体温が上昇。結果、熱中症になってしまいます。

さらに、暑くなって体内の熱を放散しようと皮膚への血流量を増やすために、心臓は頑張ってたくさんの血液を皮膚へ送ります。心臓が頑張るというのはつまり「心拍数が増加する」ということ。心拍数の増加は、心臓にすごく負担がかかります。高齢者の中には、心疾患を持っていたり循環器系に疾患を持っている人も多いため、心臓が頑張れずに、熱をうまく放散できなくて熱中症になりやすくなります。

体液量の低下

体液とは、体内にある水分の量のこと。人間の体の50〜80%は水分と言われています。赤ちゃんの体の約80%は水分です。そして歳をとればとるほど体内の水分は減っていき、高齢者になると体内の水分は50%ほどまで減ってしまいます。

この「体液量の少なさ」も、体内の熱を体外へ放出する能力の低下につながります。また、若い人と高齢者が同じ量の汗をかいた場合、体内の水分量が高齢者の方が少ないため、より深刻な脱水状態になってしまいます。

高齢者の熱中症を予防するために

高齢者_予防_笑顔

熱中症は、しっかりと予防をすれば、未然に防ぐことができます。ズバリ、何を気をつければいいのか。それは体温の上昇脱水です。

体温が上昇しないようにする

体温の上昇を抑えるには、大きく分けると2種類の方法があります。

1)行動性体温調節

これは簡単に言えば、何か「行動」をすることで、体温が上がらないように、もしくは体温を下げようとすることです。

具体的に言うと、人は(暑いなー)と感じた時、服を脱いで薄着になったり、涼しい場所に移動したり、扇風機をつけて風を受けたり、冷房をつけたりなど、暑さをしのぐために体温を下げようと行動します。このことを行動性体温調節反応と言います。

2)自律性体温調節

暑いなーと感じた時、人の身体は勝手に皮膚の血管を広げて皮膚の血流量を増やします。皮膚の血流を増やすことで、より早く熱を体外へ放出しようとします。それでもまだ暑い場合は、汗をかくことで体温を下げようとします。

これは上の行動性体温調節と違って、自分でやろうと思ってできることではなく、身体が勝手に(自動的に)行うので、自律性体温調節反応と呼ばれます。

真夏の気温が高い日には、皮膚の血流量を増やすことによっての熱の放散がほぼできなくなってしまいます(皮膚の熱よりも気温の方が高いので)。よって、もう1つの機能である「発汗」によって熱を放散しなければいけなくなるのですが、汗をかくためには、体の水分量を維持することが必要になります。よって、脱水しないようにこまめに水分補給をしておく必要があるのです。

こまめな水分補給

水分補給_熱中症_熱射病

上で何度か出てきていますが、高齢者の体内には若い人に比べてもともと水分の量が少ないため、脱水症状になりやすいです。のどの渇きも遅れてやってくるので、特に夏は、のどが乾いていなくても常に少しずつでも水分を摂るよう、おじいちゃんおばあちゃんに言ったり、促したりしましょう。

日常生活の中では特に「入浴中」と「睡眠中」にかなりの汗をかくので水分が失われます。よって、寝る前や起きた時のコップ1杯の水分補給や、入浴前・入浴後のコップ1杯の水分補給は習慣にして、脱水を防ぎましょう

熱中症予防のための「水分補給」というと、水やお茶、スポーツドリンクや経口補水液などを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、梅昆布茶みそ汁もオススメ。高齢者は塩分が少ないものを好む場合も多いため、食事の際には必ずみそ汁を食べることで、ミネラルや塩分をしっかり摂ることができるので、熱中症の予防に有効です。

水分補給については「【まとめ】科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給」の記事にまとまっています。ぜひこちらもお読みください。

体温調節能力の改善

普段から運動をしている・身体を動かしている高齢者は、若い人と同じくらいの体温調節反応を持っていることがわかっています。よって、1日1回、数十分でもいいので、外出して散歩したり運動したり、家の中の階段を何往復か上り下りしたり、部屋の掃除をしたりなど、少し汗をかく程度の運動をして、体力をつけて、体温調節能力をキープしましょう。

日常生活でのちょっとした対策

普段生活している中でのちょっとした心がけが、熱中症を防ぎます。

a)日中の生活では、冷房や空調設備を利用する

高齢者は、身体を冷やしたくないなどの理由で、若い人に比べて冷房をあまり使わない傾向にあります。ですが、冷房や空調設備を使っていない高齢者ほど、熱中症になりやすかったり重症になってしまっているという報告があります。

よって、特に真夏の暑い日は積極的に冷房を使用しましょう。一緒に住む家族や周りの方は注意を払い、高齢者がよくいる部屋には温度計を置いて、部屋の温度を快適に保ちましょう。

厚生労働省の推奨温度は28℃。日本生気象学会は、部屋の温度は28℃を超えないようにしましょうとあります。注意したいのは「エアコンを28℃に設定する」のではなく「部屋の温度が28℃になるようにエアコンを設定する」必要があるということ。エアコンを28℃に設定しても、実際にいる部屋や場所はもっと気温が高い、ということはよくあります。部屋の温度をモニターするために、高齢者の方や、高齢者の方と一緒に住んでいる方は、部屋に1つ「温度計」を用意すると良いでしょう。

b)暑い日は決して無理をしない

とにかく暑い日には、おじいちゃんおばあちゃんには無理をさせないこと。室内にいれば安全、というわけではないですが、なるべく暑さを避けて、快適に過ごすことが大切です。

もし外出中に熱中症になってしまったら、公共施設やデパートなどの商業施設といった冷房の効いている場所に入り、身体を休めましょう。 

c)外出するときは、衣服を工夫する

暑い日に外に出るときは、まず薄手の白っぽい衣服(できれば吸汗・速乾素材)を着ましょう。熱を吸収しづらいです。逆に黒色系の衣服は輻射熱を吸収してしまうので、熱がたまっていってしまいます。

また、その衣服は肌にピッタリするものではなく、少し緩めのものを着て、衣服内で風が流れるようにしましょう。風の流れが熱放散を活発にします。さらに、通気性の良い帽子をかぶったり、日傘を利用しましょう。日差しを直接受けることを防ぐとともに、頭からの熱放散も妨げません。

d)涼しい場所に避難する・適宜休憩する・頑張らない

これが一番大事かもしれません。少しでも(何かおかしいな?)と思ったら、まず外にいるときは涼しい場所に避難しましょう。冷房が効いているコンビニや、日差しを避けるためにどっかのビルの中に入るといいですね。なければ、木陰・日陰に行きましょう。5〜10分だけでも休憩するだけで、体調はだいぶ変わります。とにかく真夏の暑い日は頑張らないことが大切。重度な熱中症になるのは「頑張っちゃう人」です。これくらいならまだ大丈夫と思わずに、適宜休憩しましょう

e)その日の体調を考える

  • 脱水状態や食事を食べていない状態で暑い環境に行くことは避ける
  • 発熱や下痢になっている時は脱水状態と言えるので注意
  • 深酒をした次の日や二日酔いになっている時も、脱水状態である

これらに当てはまる体調の時は、体調の回復とともに、食事や水分摂取が十分にできるまでは、暑い場所での活動は控えましょう。

まとめ

とにかく熱中症は予防!予防!予防!です。ちゃんと対策を取っておけば、熱中症は防ぐことができるし、熱中症になってしまったとしても早く対応することで最小限に抑えられます。周りにおじいちゃんおばあちゃんがいる時は、みんなで協力して熱中症から守ってあげましょう。

Written by
ATSUSHI
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