暑い環境で運動を行うと、心肺機能や中枢神経の機能が低下し、さらには深部体温が上昇しすぎることによって、その運動のパフォーマンスレベルは下がるとともに、疲労がたまるのも早くなってしまうことが、多くの研究によって明らかになっています。
このパフォーマンスレベルの低下を防ぐ方法の1つとして言われているのが「水分補給」です。
水分補給についての詳しい解説は「【まとめ】最新の科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給」をぜひ読んでいただきたいのですが、水分を補給することで、脱水症状を防ぎ、深部体温の上昇を抑えることで熱中症の予防になるとともに、心肺機能が維持され、運動パフォーマンスを維持・向上させることもできます。
今回の記事のテーマは、その水分補給をする際の「水の温度」です。
水分補給の目的の1つとして「深部体温の上昇を抑える」ことがあるのであれば、より冷たい水分を補給した方が深部体温は下がるのではないか?
また、水分の温度が違うだけで、運動中に飲む水の量に変化はあるのか?(=冷たいほうが美味しく感じるため飲む量も増える?)
ただ「休憩をこまめにとれ!」「こまめに水分補給をしろ!」と「水分を摂る時間・行為」に注目するだけでなく、その水分の温度も気にすることで、熱中症やパフォーマンスレベルの低下をさらに防ぐことができるのではないか?
ここから詳しく解説していきます。
>>参考文献はこちらです。
「Influence of Beverage Temperature on Exercise Performance in the Heat: A Systematic Review」
Burdonらが2010年に発表した、暑い中での運動パフォーマンスに対して、飲み物の温度がどれくらい影響するのかを研究したシステマティックレビューです。
「Influence of Beveragge Temperature on Palatability and Fluid Ingestion During Endurance Exercise: A Systematic Review」
Burdonらが2012年に発表した、持久的な運動中の水分補給に関して、水分の温度はどのように影響するかを研究したシステマティックレビューです。
【結論①】温度の冷たい水分の補給は深部体温を下げる傾向にある
2010年に発表されたシステマティックレビュー「暑い環境で運動をするときに冷たい水分を補給することの影響・メリット」について調べられたレビューには、10個の研究が含まれました。
その中で、3つの研究で「暑い環境での運動中、温度が低い水分(10℃以下)を補給したほうが、体温に近い水分(37℃以上)を補給したときよりも深部体温が下がった」と示しています。
このレビューに含まれた他の研究では、冷たい水分を補給したほうが深部体温が「有意に」下がった、という結果を得ることはできていません。
ですが、どれも深部体温を下げる傾向にはある、とこのレビューでは結論づけています。
深部体温がより下がった、もしくは下がる傾向にあった、と示している研究では、より温度の低い水分が使用された(5℃以下)とともに、より気温の高い場所(28℃以上, 湿度30%)が研究場所として使われた、という傾向も一緒に報告されています。
【結論②】水の温度が冷たいほうがより「水分を補給したくなる」
多くの研究で、水分の温度は「水分補給の頻度」に影響するということがわかっています。
アメリカスポーツ医学会(ACSM)が2007年に発表したPosition Standでは、運動中の人が最も好み、頻繁に水分補給をしたのは「15〜21℃」の水分だった、と報告しています。
今回参考にした2012年のレビューでも、0〜22℃の水分と22〜46℃の水分を比較すると、温度の低い水分のほうがより好まれた、と示しています。
また、のどの乾きをなくしてくれる効果や、水分補給をすることの満足感も、冷たい水分の方が大きかった、と報告されています。
さらに「暖かい〜暑い環境で運動を行っている最中の水分補給」に関しても、温度の低い飲み物を用意しておいたほうが、誰かに指示をされなくてもより多くの水分を補給した、ということがわかりました。
逆に、水分の温度が上がれば上がるほど、運動中に限らず運動前や運動後も、水分補給の量は減ってしまう傾向にあり(=飲みたいと思わなくなる)、それによって脱水や体重の減少が起こってしまう、とも報告されています。
冷たすぎる水分は、逆に水分補給の量を減らしてしまう可能性がある
今回の参考文献である2つのシステマティックレビューによれば、「深部体温を下げる」という目的であれば、低い温度の水分(5℃以下)を補給する方が、体温を下げる効果はありそうです。
ですが、冷たすぎる水分は逆に水分補給の量を減らす、という報告もあります。
システマティックレビューに含まれたいくつかの研究では、かなり冷たい水分(0〜10℃)と冷たい水分(11〜20℃)の2種類の飲み物で、水分補給される量が比較されました。
結果、かなり冷たい水分の方が飲んだ時の満足度は高い傾向にあったが、運動中に飲まれたトータルの水分補給量を比べると、11〜20℃の水分のほうがより多くの量を飲まれた、ということがわかりました。
この理由について挙げられているのは、かなり冷たい水分を補給すると、すぐに満足感が得られるとともに、のどの乾きがすぐに満たされる感覚があるため、一度の水分補給で摂取する水分の量が少なくなるのではないか、と推察されています。
温かい(ぬるい)水分しかない場合は「味をつける」
2012年発表のレビューでは、まだ研究をする必要があるとしていますが、より水分補給を促進するためには「水に味をつける」ことも効果的であろう、と示しています。
ここでおもしろいのは、冷たい水分と温かい水分に味をつけると、どちらの温度でも、味がない水分と比較すると、味がある水分の方が水分補給の量は増えた、という結果になったのですが、温かい水分に味をつけた方が水分補給の量はより増えた、ということなのです。
この理由としては「温かい水分の方がより甘く感じるから」だろうと推測されています。
よって、もし氷が足りなくて、運動中(運動前でも運動後でも)に補給する水分がぬるく、温かくなってしまったら、冷たくはできなくても、砂糖を少し入れて混ぜたり、レモン汁を入れるなどして味をつけることで、水分補給を促進し、脱水などを防ぐことができるかもしれません。
まとめ
暑い環境での運動中に補給する水分の「温度」に注目してみました。今回の参考文献からの結論は2つです。
1つ目は「深部体温を下げる目的であれば、5℃以下のすごく冷たい水分を補給する」ということ。
2つ目は「水分補給の量を確保するためには、水分の温度は10〜20℃にするのが効果的」ということになります。
あまりにも冷たい水分だと、少し飲んだだけで満足してしまい、補給する量が足りなくなる恐れがあります。
ですが、10〜20℃の水分では、深部体温を下げる効果はあまりない可能性があります。
ここからは私の提案ですが、練習中にサッと摂る水分補給は5℃くらいの水分にして、練習を1回止めて行う休憩中の水分補給は10〜20℃の水分にして量を摂る、といったような工夫ができたら理想的かもしれません。
「すごく冷たい水分だと補給量が減る」ということを知っておくだけで、補給量を意識することができるということも考えられますね。
みなさんの参考になれば幸いです。
深部体温を下げるという目的の場合、冷たい飲料よりも「アイススラリー」の摂取のほうが効果的であることがわかっています。「身体を “内側” から冷やすアイススラリー摂取で熱中症を予防する」の記事もぜひお読みください。