熱中症の予防や対策の方法として必ず話に出てくるものの一つが「WBGT(暑さ指数)」です。この指数は、気温・湿度・風(気流)・輻射熱の4つの影響を総合的に判断して、運動中に熱中症になる危険性を数字で表したものです。
つまり、このWBGT指数を見ることで、今日は熱中症になりやすい日なのか、なりにくい日なのかがわかります。今回は、熱中症を予防する上で欠かせない、このWBGT/暑さ指数について解説していきます。
>>参考にした文献はこちらです。
Wet Bulb Globe Temperature Monitoring | Korey Stringer Institute
WBGTとは?
WBGTとは、Wet Bulb Globe Temperatureの頭文字をとったもので、日本では「暑さ指数」と呼ばれたりもします。
日本体育協会はWBGTのことをこう説明しています。
熱中症予防の温度指標
日本救急医学会はWBGTをこう表しています。
気温・湿度・風・日射・輻射の気象条件を組み合わせた熱中症リスク指標
難しめの言葉が並んでいますが、簡単に言えば「熱中症になる確率の高さを表す数字」という感じです。
一番のキーは「気温」と「湿度」
まず、熱中症になるリスクを一番あげるのが「気温」と「湿度」。気温と湿度が高くなればなるほど、外で運動をしている人は熱中症になりやすくなります。
人間の身体が、運動によって筋肉から産まれた体内の熱を体外に逃がす方法はいくつかありますが、気温が上がると、そのいくつかの方法はうまく働かなくなります。唯一働くのが「汗をかいて、その汗が蒸発するときに気化熱として熱を奪っていく」というもの。よって「汗をかく」という行為はとても重要なのです。
しかし、気温が高いうえに湿度も高い場合。空気中にはすでに水分がたくさんあるということなので、かいた汗がなかなか蒸発してくれません(=熱が体外に放出されず、体内に残る)。日本の夏は特に湿度が高いためこの状況になりやすく、結果として熱中症にもなりやすくなってしまいます。
気温と湿度の他に「風」と「輻射熱」を加えたのがWBGT
「WBGT」は1950年代にアメリカで発明されました。これは、1940〜50年代にアメリカの軍人さんたちが軍隊のトレーニング中に立て続けに熱中症によって亡くなってしまったこと(1942〜1944年の間に198人が死んでしまった)が発端のようです。
最初は彼らも「気温」と「湿度」に注目し、どっちとも高い日は軍隊トレーニングの時間を短くしたり、時間の変更をしたりしていたようです。そして少しずつ熱中症のリスクを高める原因が様々な研究を通してわかってきて、気温と湿度の他に「風の有無や強さ(=風がない・弱い日は熱中症になりやすい)」と「輻射熱(日差しの強さ)」の要素を加え、その総合点のようなものを「WBGT」として数値で出しました。
アメリカの軍隊は、WBGTを熱中症予防ツールとして使い始めたところ、熱中症による死亡事故が劇的に減ったということです。
WBGTの計算方法
というわけで、上記した要素をすべて含めたWBGTの計算方法が以下の通りです。
WBGT=0.7×湿度+0.2×輻射熱+0.1×気温
「風の有無や強さ」の話をしたばかりなのに、風の要素がこの計算式には入っていませんね。暑さ指数は、風以外の3つの要素によって計算されます。この数値の補足として、風がある日(もしくは風がある場所での練習)は少しマシになる、と考えれば良いと思います。
また、WBGTの式を見てもらうとわかりますが、0.7をかけているのは「湿度」です。つまり、WBGTの数値は湿度が大きな比重を示していることがわかりますし、湿度が高い日は熱中症のリスクが上がるということですね。
まとめると「気温が高い」「湿度が高い」「風がない」「輻射熱が強い」が重なると、暑さ指数は大きくなります。
WBGTの調べ方
気温と湿度は、天気予報を見ればだいたいわかりますね。ですが、WBGTの数値を求めるには「輻射熱」も必要ですね。輻射熱は天気予報をみてもわかりません。
よってここからは、暑さ指数の調べ方を紹介していきます。一番簡単なのは、以下の3種類だと思います。
1) WBGTを測定できる装置・ツールを購入して使う
今は便利な世の中になったもので、わざわざ自分で計算しなくても、WBGTを測定できる装置(熱中症指数計)を買えば、数秒〜数十秒で数値を出してくれます。最近はコストも安いものが増えているので、ぜひ購入を考えてみてください。
私が個人的に持っているのはTANITAの熱中アラームです。
外に持っていくのでコンパクトなもののほうがラクですね。パッとWBGT値が測定できるのでオススメです。室内でも使用できるので、室内競技で働くトレーナーさんや部活動の顧問の先生にもオススメですよ。
値段が高い方がやっぱりいいの?と聞かれたりするのですが、私は安いものでも充分だと思っています。一番大事なのは、運動をするとき(もしくは選手にさせるとき)に必ずWBGTを測定して、その値によって練習の長さを変えたり、休憩の時間を増やしたりと修正を考えること、だと私は個人的に思っています。
2) 環境省が発表している「熱中症予防情報サイト」で調べる
環境省は毎年4月〜9月の間、毎日その日のWBGT値や、数日の予測値を発表しています。部活動の顧問の先生や、クラブチームの監督・コーチなど、練習のスケジュールを決めたり管理する立場の人は、毎朝もしくは毎週このサイトをチェックして、練習時間や練習場所、練習内容などを決めるというのもアリですね。
この環境省のウェブサイトの使い方を記事で解説してみました。「WBGTが毎日発表される『熱中症予防情報サイト』を利用しよう!」も読んでみてください。
3) WBGT推定表を利用する
気温と湿度がわかれば、それを元に上の表を使ってWBGTの推定値を出すことができます。天気予報を見れば気温と湿度はわかりますね。
ただ注意が一つ。この表は「気温」と「湿度」のみで求められています。輻射熱が全くなく(=室内)、風もない場所であればこの表から求められるWBGTは正しいですが、外での運動の場合は輻射熱が加わってくるので、正しいWBGT値ではないので気をつけてください。
もしその日が屋外での練習・試合などで、風が全然無かったり、雲ひとつない青空で太陽がガンガン照り付けているような日であれば、表のWBGT値にプラス1〜3℃して考えていただければ(もしくは一段階上の階級と考える)いいと思います。
どうせ天気予報アプリで気温と湿度を調べるなら…
「熱中症警戒計」というアプリがあります。今はなんでもアプリがありますね。便利な世の中です(笑) このアプリは日本気象学会の熱中症予防指針に基づいてWBGTを測定しているようなので(上の表も同じものを参考に作成されています)、上の表と同じWBGT値が出るはずです!
アプリ「熱中症警戒計」の使い方を解説した記事書きました。「熱中症アプリ『熱中症警戒計』がオススメの理由と使い方」もぜひご覧ください。
WBGTの使い方
その日の暑さ指数がわかったら、その数字が何を表しているのかを知る必要があります。上の表は「WBGTの値別に注意すべき点がまとめられた表」になります。是非ともこの表を参考にして、その日の練習計画を立てていただけたらと思います。
「激しい運動」とは?
この表で出てくる「激しい運動」とは、以下のようなものを指します。
- ジョギング・ランニング・マラソン
- 自転車
- サッカー・テニス・バドミントン・バスケットボール・剣道・水泳・卓球
- エアロビクス・縄跳び・リズム体操
- 登山
「練習時間」「練習場所・環境」を工夫するとは?
暑さ指数が高い日は、以下のような工夫をして、熱中症を予防しましょう。
- 1日の中でも暑い時間(10〜17時)での練習は避ける
- 屋内での練習に変更する
- 練習の強度を落とす
- 練習時間を短くする
- 薄手で白っぽくて通気性の良い服装や帽子にする
- 体調が少しでも悪い子は別メニューにする(もしくはその日は休み)
- 休憩の時間を頻繁にとる
- 休憩は日陰や室内でとる
- 子供たち・選手たちが “いつでも” “自由に” “好きな時に” 水分を補給できる環境を作る
- 体調が悪くなった子が出てきたときのために、その子が休むことができる涼しい部屋や道具(クーラーが効いている・氷や氷風呂が用意してある・扇風機がある・水分塩分を補給できる・救急箱を用意…など)を用意しておく
- トレーナーなどの専門家を練習場所に呼ぶ
- 選手たちが体調不良を感じた時に、正直に監督やコーチに言い出すことができるチームの雰囲気作り
上に挙げたものはほんの一部です。皆さんのそれぞれの現場によって、できることを考えて、実践して欲しいなと思います。
まとめ
WBGT値・暑さ指数の使い方のまとめです。
- まず、上の「WBGT値の調べ方」で紹介した方法(それ以外の方法でもいいです)で、その日のWBGT値を知る
- 「WBGTの値別に注意すべき点がまとめられた表」で、その日のWBGT値に当てはまる場所の注意事項を読む
- 注意事項に従って、練習時間や練習場所・環境などを工夫する
運動やスポーツの指導者、部活の顧問の先生や監督・コーチ・マネージャーなど、運動・スポーツをする人を支える立場になる人は、ぜひこのWBGTを利用して、熱中症を予防しましょう。