熱中症による事故を防ぐための熱中症情報サイト

「クレアチンを摂取すると熱中症になりやすくなる」というのは誤った認識です

すごいスピードでスポーツ医学・科学は進歩しています。いわゆる「サプリメント」もすごい進化を遂げていて、効果的に使用することで、健康維持・増進に役立つだけでなく、アスリートにとってはパフォーマンスアップに重要な役割を果たすようになりました。

数多くあるサプリメントの中でも「クレアチン」は、多くのアスリートによって、パフォーマンスアップのために摂取されています。

ですがこのクレアチンは、摂取すると「筋肉がつりやすくなる」「肉離れしやすくなる」「脱水症状になりやすくなる」「熱中症になりやすくなる」など、様々な副作用があるという噂があります。

今回は、クレアチンを摂取することによって本当に脱水状態を引き起こすのか? 体温調節機能に悪い影響を与えて熱中症のリスクを上げてしまうのか? という疑問・噂を、システマティックレビューを参考文献として検証してみます。

システマティックレビューとは、あるテーマに関する信頼できる研究論文を集めて、それらの研究結果の傾向をまとめたものです。メタアナリシスとともに、エビデンスレベルが最も高い研究デザインです。

>>今回の参考文献はこちらです。

CreatineSysRev

1. Does Creatine Supplementation Hinder Exercise Heat Tolerance or Hydration Status? A Systematic Review With Meta-Analyses
クレアチンサプリメントを摂取することによる暑さへの対応力や水分量の変化を考察したシステマティックレビューです。

ISSN_Creatine

2. International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine
国際スポーツ栄養学会による「クレアチンサプリメントの効果と安全性」についてのポジションステイトメントです。

creatine_cramping

3. Cramping and injury incidence in collegiate football players are reduced by creatine supplementation
大学アメフト選手によるクレアチンの摂取が、足のつりやすさや下肢の怪我に影響を及ぼすのか?を研究した論文です。

クレアチンがもたらすと言われている効果

まず、そもそもクレアチンがなぜパフォーマンスアップに効果があると言われているのでしょうか? ここで簡単に説明してみます(あくまでもシンプルなイメージです)。

筋肉を使う(=収縮させる)ためには、エネルギーが必要です。車もガソリンがなくなると止まってしまうように、筋肉もエネルギーがなくなると動かなくなってしまいます。

身体の中で筋肉に使われるエネルギーは「ATP(アデノシン三リン酸)」と呼ばれる分子によって作られます(とりあえず「ATPがエネルギーを持っている」と理解してください)。

「身体を動かす=筋肉を使う」なので、「動くぞ!」というときは、ATPが持っているエネルギーを使われる筋肉に渡し、そのエネルギーを使って筋肉は収縮します。

ATPは持っていたエネルギーを渡してしまったので、ADP(アデノシン二リン酸)になります。

このADPが再びエネルギーを得るためには「リン酸」が必要なのですが、このリン酸を素早くADPの所に持ってきて、ATPにする助けをする働きをすると言われているのが「クレアチン」です。

「ATPがなくなってしまう=筋肉が使えるエネルギーがなくなる」ということなので、クレアチンがATPを素早く作る手助けをすることで、筋肉が使うことができるエネルギーが増えるため、結果的にパフォーマンスがアップする、と考えられています。

クレアチンは筋肉の中に貯めておけることがわかっているため、クレアチンをサプリメントによって摂取して貯めておくことで、エネルギーが多く必要になったとき(=激しい運動・パフォーマンスを行うとき)に効率よくエネルギーを増やすことができるのです。

クレアチンがもたらすと言われている副作用

クレアチンの摂取はパフォーマンスアップに効果があるのではないか、と言われる一方で、巷では多くの副作用についても言われています。

以下、メディアなどで世間に伝えられている、クレアチンがもたらすと噂されている副作用です。

  • 筋肉がつりやすくなる
  • 肉離れになりやすくなる
  • 運動中にお腹が痛くなる
  • 腎臓に過度な負担をかける(腎臓を損傷させる)
  • 体温調節機能が働かなくなる

実際に、2000年にアメリカスポーツ医学会(ACSM)が発表した「クレアチンのサプリメント摂取による生理学的な健康への効果」に関する会議レポートでは、もし「体重をコントロールしたい」場合や「暑熱環境下で激しい運動をする」ときは、クレアチンの摂取は避けたほうが良い、と示されました。

2000年(今から約20年前)の段階では、クレアチンを摂取することによって「体内の水分量が変化する」「体温調節機能がうまく働かなくなる」と考えられていました。

ですが、今回の参考文献によると、体内の水分量の変化や体温調節機能の低下をはじめ、筋肉がつりやすくなったり、腎臓に負担をかけるなどは、すべていわゆる「噂」であり、科学的なエビデンスはないとしています。

【結論】クレアチン摂取によって体温調節機能の低下や脱水が引き起こされることはない

今回の記事の結論です。

今回のシステマティックレビュー1では、10個の信頼できる研究論文が集められましたが、その10個すべての論文で「クレアチンを摂取して暑熱環境下で運動をしても、体温調節機能の低下や深部体温の上昇、脱水、汗をかく量やおしっこの量の増加などに変化は見られなかった」と示しています。

このシステマティックレビューで集められた10個の研究で使われたクレアチンの量は「1日20-25g」であり、クレアチンを摂取していた期間は「5-28日間」でした。よって、1日に25g以上摂取したり、28日間以上継続して摂取した場合は、結果が変わってくる可能性があります。

クレアチン摂取によって体内の水分量が増える

多くの研究によって「クレアチンを摂取することで体重が増える」ということが示されています。

システマティックレビュー1でも、集められた10個の研究論文のうち9つで「クレアチン摂取によって体重の増加が見られた」と示しています。

ですが同時に、「クレアチン摂取によって体内の水分量が増えることで体重の増加が見られることがあるが、それによって運動中に汗をかく量に変化は見られず、体温調節機能に影響はない」とも示し、結論づけています。

いくつかの研究では、クレアチン摂取によって細胞内の水分量や体内全体の水分量が増えることで、体温調節機能をサポートしたり、むしろ改善させたりするのではないか、ともしています。

クレアチン摂取が筋肉をつりやすくすることはない

熱けいれん_下肢_サッカー

Greenwoodら3による、アメリカの大学アメフト選手を対象に行なった研究によると、暑熱環境下でパフォーマンスを行うアメフト選手たちを「クレアチンを摂取するグループ」と「摂取しないグループ」に分けて比較したところ、脱水状態や筋肉のつりやすさ、怪我が起こる割合に違いはなかった、と結論づけています。

むしろ、この研究結果だけを見ると、クレアチンを摂取していた選手たちの方が、足がつったり筋肉の怪我(肉離れなど)をする割合は摂取しなかった選手たちよりも低かった、ということ。

この研究でも、クレアチンの摂取はむしろ水分補給を促進させ、暑熱環境下での運動中の体温調節機能のサポートをするのではないか、と示しています。

まとめ

国際スポーツ栄養学会のレビュー2によれば、クレアチンの摂取は、筋肥大やパフォーマンスアップにおいて「エビデンスレベルA(=明らかに安全で効果があるもの)」と分類しています。

摂取する量さえ適切に守れば、クレアチンはパフォーマンスアップに役立つ上に、怪我を引き起こすリスク、熱中症になるリスクにも影響がないことがわかっている素晴らしいサプリメントの1つです。

うまく活用していってくださいね。

Written by
ATSUSHI