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【児童の熱中症対策】運動前の手掌冷却とアイススラリー摂取で熱中症を予防する

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以前「子供が熱中症になりやすい理由は、体の小ささと発汗能力の低さだった」という記事を書き、子どもは熱中症になりやすいことをお伝えしました。

そして、子どもを熱中症から守る方法の1つとして「とにかく身体を冷やす」ことが大切だと示しました。

身体を効果的に冷やす方法は様々です。

アイスバッグや氷のうを体に密着させたり、エアコン・扇風機などで冷たい風を送ったり、水風呂に浸かったり。

そんな中、近年新たに注目されている冷却方法が、AVA血管を冷やして体温を下げる「手掌冷却」と、身体を内側から冷やす「アイススラリーの摂取」です。

国際武道大学の笠原教授によれば、これら2つの方法による冷却によって、深部体温を効果的に下げられるということは、すでに研究によって示されているということ。

しかし、その研究の被験者は「大人」や「アスリート」であることがほとんどであり、子供を対象に冷却効果を検証した報告は少ない、ということでした。

子供と大人では、体温調節機能の働きが違います。

詳しくは「子供が熱中症になりやすい理由は、体の小ささと発汗能力の低さだった」の記事で詳しく解説していますが、子供は、高齢者とともに「熱中症弱者」とも呼ばれるくらい、熱中症になりやすいのです。

そこで今回は、環境省が行っている「令和2年度熱中症予防対策ガイダンス策定に係る実証事業」の1つで、シャープ株式会社、株式会社ウィンゲート、国際武道大学が共同で行った「スポーツ現場における児童のための熱中症対策検証事業」について紹介しながら、児童を熱中症から守るためのポイントをお伝えします。

>>今回の参考資料・文献はこちらです。

JSPO_screenスポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック
日本スポーツ協会より発行されている、熱中症予防のための運動指針が解説された冊子です。2019年に改定されたので、まだ読んでいない方はぜひ!

IceSlurryIce slurry ingestion during break times attenuates the increase of core temperature in a simulation of physical demand of match-play tennis in the heat
テニスの試合中の休憩に「アイススラリー摂取」と「冷水摂取」をすることによる深部体温の変化を比較した研究です。

AVA_cooling手足の冷えのカギ握る『AVA血管』、調節のコツは?|日経Gooday
神戸女子大学教授の平田耕造先生による、AVA血管についてわかりやすく解説された記事です。

運動前の「手掌冷却を含めた身体冷却」と「アイススラリー摂取」は運動中の体温の急上昇を防ぐ

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結論は、大人と同様に、児童にも熱中症予防の対策として、運動前の「手掌冷却を含めた身体冷却」と「アイススラリー摂取」は効果があるだろう、という結果でした。

児童を冷たい氷風呂に入れたり、体にたくさんのアイスパックを当てて冷やす、というのは、効果があることがわかっていても、現実的に難しい状況のときもありますよね。

でも「手を冷やすだけ」や「アイススラリーを飲むだけ」なら、子供でもむしろ喜んで行いそうです。

前述しましたが、熱中症予防のための対策として「効果的な冷却方法」についての研究はたくさんありますが、小学生・中学生を被験者としたものはあまりありません

理由は「未成年を、暑熱環境下で運動させて、実験する」というのが、倫理審査が通りにくいということ。

通すのが難しいと言われる倫理審査を通して行われたこの貴重な検証実験がどのように行われたのか、ここから詳しく紹介していきます。

検証実験の目的

大人では多くの研究によって、熱中症を予防するための方法として効果があることが証明されている「事前冷却(プレクーリング)」と「アイススラリーを摂取する」の2つの方法が、児童に行っても効果があるのか、を検証するための実験でした。

実験対象

被験者は「健康な小学校3年生〜中学2年生の男子20名」でした。

今回の実験の被検者は「男子のみ」で行われました。

理由は、1人の被験者が計3回実験に参加するため、女子は、月経等のために毎回のコンディションや体温が変化してしまう可能性がある(=毎回の実験条件が変わってしまう可能性がある)ということです。

実験方法

前述しましたが、被験者20人は、計3回の実験に参加しました。

【1】事前冷却:運動前に「手掌」「前腕」「ふくらはぎ」を、「12℃の蓄冷剤」で「30分」冷やす
【2】アイススラリー摂取:運動前に「5〜7g/kg(体重)」のアイススラリーを「30分」かけて飲む
【3】コントロール:座った状態で「30分」安静にする

運動前に体温(今回は「鼓膜温」)を測定した後、上記したいずれかを行います。

その後、人工的に室内に作られた「暑熱環境(WBGT『25〜28℃(=警戒レベル)』)」の中で、トレッドミルで「30分間ウォーキング(運動強度は「ややきつい」レベルを維持)」を行い、その運動中の体温上昇の変化が比較されました。

「WBGT」について詳しく知りたいという方は「熱中症を予防するために運動前に暑さ指数(WBGT値)を調べよう」の記事をご覧ください。

実験結果

運動前に「12℃の蓄冷剤による事前冷却(手掌・前腕・ふくらはぎ)」「アイススラリー摂取」「コントロール(=安静にして座る)」を行い、その後行った30分間のトレッドミルウォーキング中の体温変化をグラフにしました。

体温変化グラフ

運動前になにもしなかった(=コントロール)ときと比べて、運動前に「事前冷却」もしくは「アイススラリーを飲む」を行うと、運動中の体温上昇が抑えられていることがわかります。

気温が高い日は特に、子供の体温は上がりやすいのですが、そんな暑熱環境下で更に運動を行うと、体温が急上昇してしまう可能性があり、熱中症のリスクがグンと上がります。

よって、児童の熱中症予防で考えたい対策の1つが「運動中の体温上昇をいかに防ぐか」です。

その体温の上昇を、運動前に「事前冷却をする」もしくは「アイススラリーを摂取する」ことで抑えることができ、熱中症予防の対策の1つとして有効である可能性がある、とこの検証事業で示されました。

手掌冷却がなぜ深部体温の上昇を防ぐのか

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身体の部位の中でなぜ「手掌冷却」が注目されているかと言うと、手掌にはAVA血管(動静脈吻合)があるからです。

AVA血管は、皮膚では「手足の末端」と「顔の一部」にしかなく、細胞に酸素や栄養素を運ぶ毛細血管とは違い、「体温調節」が仕事の特殊な血管です。

よって、身体の部位の中でも、このAVA血管がある「手掌」を冷やすことで、他の部位を同じように冷やすよりも、より体温を下げたり、体温の上昇を防ぐ効果が高い、ということです。

手掌冷却が効果的であるとはいっても、手掌のみを冷やせば深部体温が下がって熱中症が予防できる、と考えることは危険です。「手掌冷却を含めた複数箇所の身体冷却」を運動前に行うことで、より確実に運動中の体温の急上昇を防ぐことができます。

アイススラリーの摂取によって体温が下がる理由

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アイススラリーの摂取は「身体の内側から体温を下げる」として注目を集めています。

私は最初「冷たいものを摂取すればいいのなら、普通に冷たい飲み物を摂取することでも一緒なんじゃないのかな?」と思いました。

この疑問を国際武道大学の笠原先生にたずねると「アイススラリーの方が、食道に滞留する時間が長いために、水分よりも体温を下げる効果が高い」ということでした。

単純に「冷たいものが身体に触れている時間が長いほど体温は下がる」ため、食道をスッと流れていってしまう水分よりも、液体に細かい氷が混ざっているアイススラリーの方が、食道で体温を下げてくれる、ということです。

まとめ

学校の先生や運動指導者、トレーナーとして、暑い環境で子供を運動させるとき、熱中症を予防するために「運動中」にこまめに水分補給を行わせたり、こまめに休憩時間をとったり、少しでも調子がおかしいな?と思ったらすぐに言うように伝える、といったことは、すでにみなさん意識していることかと思います。

それに加えて「運動前」に手の平を冷やすことや、アイススラリーを飲むといったことも、ぜひ行ってみて下さい。

「運動前に身体を冷やす」というのは、指導者としてあまり考えたことがないという人も多いかもしれません。

ですが、「暑い」というのは、それだけで身体に負荷がかかっています。

身体を快適な状態にしてあげることで、運動パフォーマンスはアップし、熱中症の予防にもつながりますよ。

Written by
ATSUSHI