熱中症による事故を防ぐための熱中症情報サイト

子供が熱中症になりやすい理由は、体の小ささと発汗能力の低さだった

子ども_熱中症_散歩

以前、熱中症になる高齢者の数、また熱中症が原因で死亡してしまう高齢者が年々増加している、という記事「熱中症による高齢者の死亡事故を防ぐために知っておくべきこと」を書きました。

ただ、熱中症になりやすいのは高齢者だけではありません。高齢者とともに「熱中症弱者」と呼ばれることもあるのが「子ども」です。ですが、具体的になぜ子供が大人よりも熱中症になりやすいか、その理由ってご存知ですか?

大きな理由は2つありました。それが「体の小ささ」と「汗をかく能力の低さ」です。

今回の記事では、これら2つの理由を具体的に解説するとともに、子どもが熱中症にならないよう予防するためにできること、を紹介していこうと思います。


>>参考文献・資料はこちらです。

熱中症環境保健マニュアル_環境省

熱中症環境保健マニュアル2014|環境省」
環境省が2014年に発表した、熱中症環境保健マニュアルです。ページ数はボリュームありますが、とても内容の濃いマニュアルです。ぜひ読んでみてください。

日体協_スクショ

スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック|日本体育協会」
日本体育協会が発行しているガイドブックです。スポーツ活動中と書いてありますが、熱中症に関する情報が詰まっています。今回の記事では、コラム「子どもの体温調節」「子どもの水分補給」を参考にしています。

東洋経済オンラインスクショ

『体温越え』が18歳未満の子に超危険なワケ|東洋経済オンライン
追加:7/25/2018】文献ではないですが、医学博士永島計さんの記事がとても参考になったので、参考資料に加えて、本記事を加筆修正しました。

子どもが熱中症になりやすい2つの理由

子ども_夏_スポーツ_汗

まず、子供が熱中症になりやすい理由を2つあげます。

1)汗をかく能力がまだ発達していない

まず大前提として「子供と大人の身体の体温調節機能は全く違う」ということを頭に入れておきましょう。そして、子供が熱中症になりやすい理由の1つ目が、体温調節にとても重要な役割を果たす「汗をかく能力」が、子供はとても低いということです。

体外に熱を放出させる(=深部体温を下げる)ために人間は「汗をかく」のですが、子ども(=思春期前の子ども)はまだしっかり汗をかくことができません。汗は「汗腺(かんせん)」という皮膚上にある腺から分泌されます(=要は、汗腺から汗をかきます)。汗腺の数自体は大人も子供も変わらないようですが(300万〜400万個)、実際に機能している汗腺が少ないため、大人と同じようには汗をかくことで体温を下げることができないのです。

汗をかくことによる体温調節機能が大人と同じレベルになるのは「18歳ごろ」だそうです。高校生でもまだ大人と同じレベルで汗をかくことができないというのは、ちょっと驚きですよね?

身体が持つ体温調節機能については、具体的に「ヒトが持つ体温調節機能のメカニズム|熱の移動と放散で体温を下げる」で詳しく解説しています。体温調節のメカニズムを知ることで、熱中症を効果的に予防することができるようになります。

2)子どもの身体は「熱しやすく」「冷めやすい」

身体が産み出す熱の量は、体重が増えれば増えるほど多くなります。つまり、体重50kgの人が産み出す熱の量と70kgの人が産み出す熱の量を比べると、70kgの人の方が、同じ行動をしたときに生み出される熱の量は多くなります。よって、体が大きい人ほど体内に生まれる熱が多いため、より多くの汗をかいて体外に放出しようとします=「汗っかき」なのです。

体内で産み出された熱を体外に放出するために、上記した「汗をかく」ことともう一つ重要なキーポイントが「身体の表面積」です(みなさん「表面積」ってわかりますか?中学生くらいのときに数学でみなさん習いましたよね?笑)。

「身体が産み出す熱の量」は体重が増えれば増えるほど多くなる、と上記しましたが、「体外と体内の熱移動の量」は逆で、体重が少ないほど相対的に表面積が大きくなるため、環境によって体温は上がりやすくもあり、下がりやすくもあります

「相対的に」という言葉がちょっとややこしいですね。もう少しわかりやすく(なってるかどうかわからないですが。笑)説明します。

ということで、数学の授業を始めます。笑

表面積_キューブ

ここに1cm × 1cmのキューブがあるとします。体積は「たて × 横 × 高さ」で求められるので「1 × 1 × 1=1cm3」 です。一方、表面積は「1辺 × 1辺 × 6」で求められるので、「1 × 1 × 6=6cm2」です(=1cm2の正方形が6つ)。つまり、1辺が1cmの立方体の体積と表面積を比べると「1:6」ですね。

では、3cm × 3cmのキューブがあるとします。同じように体積と表面積を求めると、体積は「3 × 3 × 3=27cm3」、表面積は「3 × 3 × 6=54cm2」となります。これらを比べると「27:54=1:2」となります。

ここで、上で話した「相対的に」の説明に入ります。

「体積=体重」とここでは考えてみます。小さい1cm × 1cmの立方体(=「子ども」だと仮定しています)は、体重1に対して表面積は6と “6倍” でした。しかし、大きい3cm × 3cmの立方体(=「大人」と仮定)は、体重1に対して表面積が2と、”2倍” に減りました。つまり「体重が多いほど表面積は “相対的に” 減っている」と言えます(=体重が少ないほど表面積が大きくなる)。

わかりやすくなってますかね?笑

ここから、本題です。

夏_子ども_表面積_汗

表面積が大きいということは、外の空気に触れている身体の面積が大きいということなので、気温の影響をかなり受けます。

具体的に言うと、気温が低い日であれば、涼しい空気が表面積の大きい身体に触れているため、すぐに体温を下げることができます。逆に気温が高い日(特に気温が体温よりも高い日)は、温度の高い空気が身体に触れているため、その熱を大きい表面積でたくさん吸収してしまい、体温が上がりやすくなります。

よって気温が高い日は、大きい表面積によって熱をどんどん吸収してしまうとともに、汗腺が未発達なために汗もうまくかくことができないため、子どもは熱中症になりやすくなってしまいます。

以前書いた記事で「WBGT(=暑さ指数)」についてのものがありますが、思春期前の子どもにとって「WBGT31℃以上=運動は原則中止」に当てはまる日は、大人以上に過酷な熱ストレスを受けます。長時間の運動は原則中止することや、一日の中でなるべく涼しい時間に運動を行うなど、工夫が必要になります。

追記:2018/7/25】医学博士である永島計さんによると、「気温が32℃以上」のときに子供を屋外で活動させることはかなり危険だということです。

WBGTに関しては「熱中症を予防するために運動前に暑さ指数(WBGT値)を調べよう」や「WBGTが毎日発表される『熱中症情報予防サイト』を利用しよう!」の記事で詳しく解説しています。ぜひこちらもお読みください。

3)地面に近づく幼児・小さな子供は特に注意が必要

夏、子どもと一緒に散歩したり、どこかに出かけることがあると思いますが、気温が高い日、さらには日差しが強い日は、身長の低い子どもや幼児は大人よりも危険な状態になります。理由は、地面からの照り返しによって、地面に近いほど気温が高くなるからです。

通常、気温は地面から150cmの高さで、しかも日陰で測定されるそうです。例えば、「今の気温は32℃です」というような発表があった時、その気温は、日陰の、地面から150cmの場所で測られたものです。そのとき、幼児の身長である50cm付近は35℃を超えます。地面付近の高さ5cmのところは36℃を超えます。アスファルトの道や人工芝にいるときはさらに高温です。

大人が暑いと感じている時は、幼児や小さい子供はさらに高温の環境にいる、ということを覚えておきましょう。

子どもに対する熱中症予防は?

子ども_熱中症_予防

それでは、熱中症になりやすい子どもを守るための予防ポイントをみていきましょう。

1)顔色や汗のかき方をしっかり観察する

子どもを観察したとき、顔が赤くなっていたり、ひどく汗をかいている場合には、深部体温がかなり上昇していると考えられます。上でも書きましたが、子どもの汗をかく能力はまだ未発達です。そんな子どもが大量に汗をかいているときは、身体がかなり頑張っている証拠です。

また、これも上記しましたが、まだうまくできない汗をかく能力(=体温を充分下げるために必要な量の汗をうまくかくことができない)を補うために、子どもは全身の皮膚への血流量を増やします。両腕や両足だけでなく、頭や胴体への血流量も増やして、全身で「対流」による熱交換を行って体温を下げようとします。血流が皮膚上に増えてくると、その皮膚は赤くなっていきます(=血が皮膚の表面に増えてくるので)。よって、顔が赤くなっているというのは、身体が必死に全身の血液を皮膚上に送って、体内の熱を体外に出そうとしていることを表しています。

顔や首など皮膚が赤くなっていたり、大量の汗をかいているときは、日陰や涼しい場所に移動して休憩するようにしましょう。

気温が高い日、子どもは熱中症の種類の1つである「熱失神」になりやすいです。理由は、体温を下げるために全身の皮膚への血流量を増やすため、脳への血流が減ってしまうことがあげられます。熱失神に関しては「熱中症の一種『熱失神』とは?熱失神の原因・症状・処置・予防まとめ」をご覧ください。

2)とにかく身体を冷やす

熱しやすく冷めやすい子供の身体の特徴を生かして、体温が上がっているようであれば、クーラーの効いた涼しい建物や部屋に入ったり、温度低めの水でシャワーを全身に浴びたり、氷で全身を冷やすなどして、体温を下げることに努めましょう。

とは言っても、常に体温を測るわけにはいきませんよね?よって、上記した1)のように、大人が子供の様子を常に観察しておくことがとても大切です。

医学博士の永島計さんによれば、子供に対して「具合が悪くなったらすぐに言うんだよ」は、当てにならないことが多いと言います。子供は、今自分は体調が悪いのか、それともただ暑いだけなのか、その見分けがつかないとのこと。大人が注意深く観察して、「普段と同じ」か「いつもと違う」かを見分けることが、子供の熱中症予防に必須となります。

3)こまめに水を飲む大切さを教育する

汗をかいて体の水分が足りなくなると、のどがかわいて、自然に水が飲みたくなります。本当に人間の体はすごいですね。普段そばにいる両親や学校の先生、スポーツを教える指導者などは「のどが乾いたときはもう水分が足りない状態だから、すぐに水分をとろうね」ということをしっかり伝えましょう。

日本体育協会のガイドブックでは、この「のどが乾く能力」は大人も子どもも変わらないと示しています(高齢者は、のどの渇きを感じにくくなります)。よって「のどが乾いたらすぐにお水を飲むんだよ!」と子供にしっかりと教育・指導し、こまめに水を飲むクセをつけさせるようにしましょう。また、運動中には子供が “自由に” “いつでも” 水分を補給できる環境をしっかり整え、こまめに休憩時間を作ることで、のどの渇きに応じて適度な水分補給ができる環境と能力を磨きましょう。

4)日頃から身体を暑さに慣れさせる

身体は、突然の暑さにはすぐには順応できません。約2週間ほど身体が暑さにさらされることで、すぐに深部体温や皮膚体温が上昇しづらくなったり、汗やおしっこから塩分がたくさん出ていかなくなったりなど、身体が暑さに適応していきます。両親は、熱中症になりやすい “暑くなり始めの時期” は特に注意しながら(=まだ身体が暑さに慣れていない時期なので)、日頃から適度に外で遊ばせるようにして、暑熱馴化(ショネツジュンカ)を促進させましょう。

暑熱馴化に関しては「【部活動指導者必読】暑熱馴化〜夏の暑さに身体を慣らすための14日間〜」で読むことができます。

5)熱が体外に放散されやすい服装を選ぶ

子供は自分の着る服装を選ぶとき「今日は暑いから白い服にしよう」とか「汗が蒸発しやすい服装にしよう」とかはもちろん考えません。よって、特に両親・保護者や、知識を持っている指導者などは、熱放散を促進する服装をちゃんと知っておき、特に気温や湿度の高い日は、子どもに着させる服装に注意しましょう。

まとめ

子どもが熱中症になるのを防ぐには、周りの大人が気にしてあげる必要があります。子供を持つ親はもちろん、子供に関わる仕事をされている方は、しっかりと子供が熱中症になりやすい理由を知っておきましょう。それが、子供を熱中症から守ることに繋がります。

子供をしっかりと守れるように。この記事が少しでも参考になれば幸いです。

Written by
ATSUSHI