熱中症に一番なりやすいのは、身体がまだ暑さに慣れていないとき。日本の気候で言うと「梅雨が開けた7月中旬〜8月上旬」ごろに熱中症はたくさん発生します。

「身体を暑さに慣らす」というのは「体内の熱を効率的に素早く体外に放出することができる身体にする」ということ。体内に熱が溜まってしまうと、熱中症の様々な症状が出てきます。暑熱馴化(「しょねつじゅんか」と読みます)をすることで、身体が熱をしっかり対処できるようになります。

運動をすると、体内には熱が発生します。つまり、夏に運動をすると、夏の暑さで体内に熱が生まれ、さらに運動によっても体内に熱が生まれるため、熱中症になりやすいのです。現に、National Center for Catastrophic Sports Injury Researchは、1995年〜2010年の間に、35人の高校生アメフト選手が熱射病によって亡くなったと報告しています。

今回は、NATAが2009年に発表した暑熱馴化に関するConsensus Statementをもとに、夏に運動をする子供や部活動・クラブスポーツをする選手たちが、どのように身体を暑さに慣らしていくべきなのかを紹介していきます。

>>参考にした文献はこちらです。

Preseason Heat-Acclimatization Guidelines for Secondary School Athletics

NATA(National Athletic Trainers' Association:全米アスレティックトレーナー協会)が2009年に発表した暑熱馴化についてのConsensus Statementです。

Heat Acclimatization | Korey Stringer Institute

熱中症の対策=暑熱馴化(しょねつじゅんか)

汗_暑熱馴化_子供

暑熱馴化とは「約10〜14日間で夏の暑さに身体が適応して起こる変化」のこと。具体的に、以下のような変化が身体に起こります。まずは、減少するもの。

  • 心拍数の減少
  • 深部体温の上昇の減少
  • 皮膚体温の上昇の減少
  • 感じる疲労度の減少
  • 汗と尿から失う塩分量の減少

 

増加するものもあります。

  • 汗をかく量の増加
  • 汗をかき始めるタイミングが早まる
  • 心臓が全身に送る血液量の増加
  • 暑い環境でのパフォーマンス能力アップ

 

これらすべての身体の適応によって、運動中に体内の熱を効率よく体外へ放散できるようになります。

また、暑熱馴化をする以前に、暑くなる前から「基礎体力をつけておく」ことも必要です。普段から運動をしていない人が暑い環境で運動をすると、より熱中症になるリスクは高いです。夏になる前に、まずは涼しい環境でしっかり運動をして基本的な体力をつけておきましょう。

 

暑熱馴化のガイドライン

NATAは暑熱馴化の期間を「14日間」に設定しています。つまり、身体を夏の暑さに慣らし、効率よく体内の熱を体外に放出する身体を作り、夏の暑い環境でも安全に運動ができるようになるためには、約2週間の準備期間が必要ということです。

1日目〜5日目まで

それでは、1日目から順番に見ていきましょう。

暑熱馴化

1)練習は1日3時間まで

1日目から5日目までは、練習は1日1回その1回の練習は3時間以内におさえましょう。この3時間の練習というのは、ウォームアップやストレッチ、クールダウン、もしウエイトトレーニングをするならそれも含めて、すべてを含めた時間です(例えば、もし室内のトレーニングルームなどで1時間トレーニングや筋トレをしたら、その日練習できるのはあと2時間です)。

もし天気が悪くなったとか、何らかの事情で練習を中断したとしても、1日の合計で練習時間が3時間を超えないようにしてください。例えば、もし練習開始から1時間30分たったところで雨が降ってきて練習を中断したら、その日に練習できるのはあと1時間30分です。

2)ウォークスルーであればもう1時間を加えても良い

ただし「ウォークスルー」であれば、プラス1時間やっても良いです。

ウォークスルーとは、ヘルメットやショルダーパッドなどの身につける道具や、バットやサッカーボールなどの道具を一切使わずに行う軽めの練習のこと。ただし、もしウォークスルーを行う場合には、3時間以内の練習とウォークスルーの間には、最低でも3時間の休憩時間をとりなさい、ということです(ウォークスルーを先にやって、後で3時間以内の練習を行うときも、ウォークスルー後最低3時間の休憩を必ず挟む)。

この休憩は、しっかりと身体を休めるための時間なので、涼しい場所で休憩しましょう。暑熱馴化の期間だからといって、休憩中も暑い場所にいる必要はありません。しっかりと身体を休めて回復させるためにも、涼しい場所で休憩しましょう。

3)運動前・運動中・運動後に水分補給

これは暑熱馴化1〜5日目に限らず、特に夏に運動をするときは必須です。

運動中は汗をかくので水分補給しなきゃ!と誰もが思うはずですが、特に重要なのは「運動前からしっかり水分補給をしておく」ということ。というのも、実は多くの人が、水分が足りない状態で運動を始めています。寝ているときに失った水分を十分に補給せずに朝練をしている人や、登校中にかいた汗の水分を補給せずにそのまま部活動の練習に入る人などが多くいます。水分がしっかり補給された状態で運動を始めましょう。

水分補給については「【まとめ】最新の科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給」でたっぷり解説しています。また、「水分補給は飲むだけでなく食べてする!水分補給にオススメの食材たち」という記事も書きました。食事で水分補給することはとても大切です。ぜひこちらの記事も読んでみてください。

4)徐々に運動の強度と時間の長さを増やしていく

やはり一番熱中症になりやすいのは、暑熱馴化がまだできていない1〜3日目です。よって、最初は運動の強度は低めから始めましょう。また、運動の時間も最初は短めから、もしくは休憩の時間を長めにとりながら運動しましょう。

また、運動の強度や時間とは関係ありませんが、特にこの暑熱馴化1〜5日目では、体調が悪いときは運動をするのをやめましょう。熱中症になりやすい体調のときは、無理は禁物です。

 特にこの暑熱馴化1〜5日目になりやすいのが「熱失神」です。熱失神については「熱中症の一種「熱失神」とは?熱失神の原因・症状・処置・予防まとめ」の記事で解説しています。

5)食事で塩分を多めに摂る

暑熱馴化のしはじめは、汗から大量の塩分が失われてしまいます。よってその塩分を補給するために、食事の際に普段より少し塩分を多めにとりましょう。料理をする方は、普段より多めに塩をふって作ってください。外食が多い方は、サラダや炒め物などに、少し塩をふって食べましょう。

 【追記(2018.7.24)】熱中症診療ガイドライン2015には、「味噌汁」と「梅昆布茶」にはミネラルや塩分が豊富なため、熱中症予防の食事としてオススメであると明記されています。

6)暑熱馴化1日目と2日目はヘルメットのみ

アメフトや野球など、何か身につけて行うスポーツの練習では、暑熱馴化の1日目と2日目はヘルメットのみの着用に制限しましょう(ショルダーパッドやキャッチャーのレガースなどは使わない)。つまり、ショルダーパッドやレガースなどの身につけるものがなくてもできる練習にとどめる、ということも意味します。

7)3〜5日目はヘルメット+ショルダーパッド

暑熱馴化3〜5日目は、ヘルメットにプラスでショルダーパッド(もしくはそれと同じくらいの身につける道具)をつけてオッケーです。徐々に道具をつけた状態での練習(=道具をつけててもしっかり体内の熱を体外に放出できる身体の準備)を行なっていきます。

アメフトの場合は、暑熱馴化5日目までは全ての道具をまだ身につけていないので、フルコンタクト(人に全力でタックルをする、など)の練習は行わないようにしましょう。すべての道具を身に付けるのは6日目から。フルコンタクトは6日目からです。

6日目〜14日目

暑熱馴化の後半です。6日目からはどうすればいいのでしょうか。

暑熱馴化6~14日目

8)1日2回の練習をしてもいいけど...

暑熱馴化期間の6日目以降から、1日に2回の練習が許されます。しかし、1日2回練習をしたら(=2部練)、その次の日は必ず1部練(もしくは休み)にしましょう。これはつまり、多くても1日2回の練習は2日に1回ということになります。

また、1日2回練習をする場合は、そのどちらの練習も3時間を超えないようにすること。そして、その2回の練習の合計が5時間を超えないようにしましょう。

上で紹介したウォークスルーと同じように、2部練をする場合も、1回目の練習と2回目の練習の間は最低3時間は休憩の時間をとりましょう。

9)7日間連続で練習はしない

6日間連続で練習をしたら、7日目は必ず1日休みましょう。

ここで1つ注意点。この休みの日は「暑熱順化の14日間」には数えません。つまり、1日目から6日間連続で練習をしたら、7日目は休養日となりますが、休養日の次の日の練習は「暑熱順化7日目」というふうに数えます(7日目は休養日だから、次の日の練習は8日目とはなりません)。

10)暑熱馴化の期間中に、誰かが練習を休んだら?

チームで練習をしていれば、チームの誰かがたまには体調が悪くなったりして、練習を休むことがあると思います。例えば、暑熱馴化を月曜日から始めて(=1日目)、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜と6日間連続で練習したとします。そうすると、土曜日は暑熱馴化6日目となりますね。

もしある選手が体調を悪くして、水曜日の練習を休んだとします。そうすると、その選手は暑熱馴化が他の選手より1日遅れることになります(水曜日の練習を休んだため、その日は暑熱馴化の日にカウントしません)。

その選手は木曜日から練習に復帰したとします。そうすると、土曜日の時点でチームのみんなは暑熱馴化6日目ですが、水曜日に練習を休んだ選手はまだ暑熱馴化5日目となります。

暑熱馴化6日目から2部練ができるという話を上でしました。そのため、チームは土曜日に2部練をするかもしれませんが、水曜日に練習を休んだ選手はまだ暑熱馴化5日目なので、2部練をしてはいけません。よって、たとえ体調が良かったとしても、この選手は土曜日は1回の練習で終えなければいけません。

このような感じで、練習を休んだ人もしっかり14日間の暑熱馴化期間をとるようにしましょう。指導者は日々、しっかりと学生・選手たちの体調を管理していくことが熱中症予防には大切になります。

11)身体を冷やす道具を準備しておく

万が一、熱疲労や熱射病になってしまったときにすぐに身体を冷やして体温を下げることができるように、その道具を準備しておきましょう。

まずは大量の氷。熱中症の予防として身体を冷やすためや、特に熱射病(=重度の熱中症)になってしまった場合は一刻も早く体温を下げる必要があるため、大量の氷(+水)が必要になります。学校であれば、食堂やジムなどに製氷機があるところもありますね。夏の期間はぜひ製氷機を有効活用して、熱中症の処置のために氷を使ってください。

また、その氷を練習場所に置いておくために「大きなクーラーボックス」があるといいですね。氷を保管しておくとともに、タオルを数枚入れて置いて「氷タオル」を作っておくことで、重度な熱中症になってしまった時にすぐ体全身を冷やすことができます。参考までにクーラーボックスは、私個人的にはキャスター付きが運びやすくてオススメです。個人的に好きなブランドであるコールマンのクーラーボックス(56L)や、Amazonでレビューが高いFIELDOORのクーラーボックス(46L)あたりがオススメかなと思います。

身体全身を冷やすために使う「ホース」も用意しておきたいですね。あらかじめ練習場所に水道があるかを確かめておき、いざとなったらホースを使って水を全身にかけます。夏だと水温が高くなってしまっている場合もあるので、できるだけ冷たい水がでる場所を知っておくといいですね。ホースは長いに越したことはないので、持ち運びもしやすそうなアイリスオーヤマのホース(20M)タカギ(takagi)ホース(20m)あたりが使いやすそうです。

重度の熱中症(=熱射病)の処置として絶対にやるべきなのが「(氷で冷やした)水風呂」です。詳しくは「首・わき・鼠径部を氷で冷やす方法では体温が全然下がらない」で詳しく説明していますが、一度体温が40度以上になってしまうと、体温調節機能が働かなくなるため、氷で身体の数カ所を冷やすくらいでは体温が下がってきません。深部体温を一番早く下げる方法として現在の研究で明らかになっているのが「2〜15℃の水風呂に浸かって体全身(首から下)を冷やす」というものです。よって、学校やスポーツチームは、万が一熱射病の患者が出てしまった場合を想定して、全身を冷やすためのバスタブを用意しておくべきでしょう。Amazonで調べてみると、伸和(SHINWA) ブル・コンテナ ジャンボ角(800L)が良さそうに見えます。小・中学生であればもう1サイズ小さい伸和(SHINWA) ブル・コンテナ ジャンボ角(400L)でも充分かもしれません。水を抜く栓もついているので、ホースがあれば洗うのも簡単ですね。

他、熱中症になってしまった人を休ませるクーラーのきいた部屋も用意しておくべきですね。

まとめ

NATAの論文では最後に「暑熱馴化の期間中は特に熱中症になりやすいので(=身体を暑さに慣らしている段階なので)、できる限りアスレティックトレーナーが練習前・練習中・練習後に現場にいるといいでしょう」と締めくくっています。

熱中症は、対応が遅れれば死に至ってしまう怖いものです。「子供たちが安全にスポーツができるように」大人たちがしっかり環境を作ってあげましょう!

 

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