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NATA Position Statementから学ぶ熱中症予防のためにするべき10のこと

熱中症_サッカー_予防_子供

熱中症は100%防ぐことができます。熱中症になってしまったらどういう処置やケアをするべきかを知ることはもちろん大事ですが、熱中症にならないことが一番いいですね。

今回は、NATA(=全米アスレティックトレーナー協会)が2015年に発表した熱中症に関するポジションステイトメント(=全米の中で(もしくは世界中で)熱中症について研究している教授たちが何人も何十人も集まって、何年もかけてまとめられた、メチャクチャ質の高い論文)を参考にして、熱中症を予防するためにできる10のことを紹介していきます。


>>参考文献はこちらです。

スクショ_NATA熱中症

National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Exertional Heat Illnesses
NATAが2015年に発表した熱中症に関するポジションステイトメントです。アスレティックトレーナーの人は全員読むべきと言えるくらいの、素晴らしくまとまった論文です。

熱中症予防のためにできること

それでは、ポジションステイトメントに示されている熱中症予防のためにできる10のことをここから紹介していきます(ポジションステイトメントでは、Preventionの項目は14個ありますが、この記事ではいくつかは1項目にまとめたので、全部で10個になっています)。

1)医師によるメディカルチェックを受ける

医師_メディカルチェック

気温が上がってくる前の時期(春〜初夏にかけて)に医師による身体検査を受けて、コンディションのチェックをしてもらえるといいでしょう。このメディカルチェックによって、そのチームの監督やトレーナーは、熱中症になりやすい選手をピックアップすることができ、より注意を向けることができます。

たとえ医師のメディカルチェックを受けることができないとしても、以下の項目はチームとしてチェックしておくといいでしょう。当てはまる選手は、熱中症になりやすいと言えます。

  • 過去に熱中症になったことがある(特に熱射病や熱疲労)
  • 体調不良・睡眠不足
  • 最近運動をしていない(=運動不足や体力の低下)
  • 何か薬を服用している(風邪薬など)

2)暑熱馴化の期間をつくる

今まであげてきた記事の中で何度も出てきている「暑熱馴化」。それだけ大事なことだということです。詳しくは「【部活動指導者必読】暑熱馴化〜夏の暑さに体を慣らすための14日間〜」の記事を読んでみてください。

3)体調不良や病気の場合は無理をせずに休む

風邪_体調不良

風邪をひいている・熱がある・体調が悪いなどの日は、それが治るまでは暑い環境下での運動は控えましょう。また、たとえ体調が良くなったとしても、治ってすぐはまだ熱中症になりやすい状態です。監督コーチや周りで支えるスタッフは、病み上がりの選手がいる場合は特に注意しておくことが大切です。

4)こまめな水分補給の徹底

「水分補給」も、熱中症を予防するために欠かせないキーポイントです。水分補給については、前回の記事「【まとめ】最新の科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給」でまとめました。

更にNATAポジションステイトメントでは、朝起きたときのおしっこの色が「透明〜薄い黄色」になるように心がけましょう、ということも示されています。おしっこの色は、自分の体内に水分が足りているかいないかをチェックする最も簡単な方法です。朝起きた時のおしっこが「濃い黄色〜茶色っぽく」なっている時は要注意。すでに体は脱水状態にあることを意味します。

おしっこの色を見れば脱水状態かどうかがわかる」の記事で詳しく書いています。ぜひこちらもお読みください。

5)指導者は熱中症についての知識を持っておく

監督_コーチ_指導者_教育

アスレティックトレーナーや医療従事者が普段の練習中にその場にいるというチームはなかなかないと思います。よって、周りの指導者や支えるスタッフ、さらには選手の両親が熱中症についての基本的な知識や熱中症の症状、対策の方法などを知っておくことが大切です。

学校で熱中症についての授業を行なって、学生に熱中症についての知識を持たせることや、熱中症は死にも至ってしまう怖いものなんだ、ということを伝えていくことも重要だと思います。指導者は、アスレティックトレーナーや医療従事者から熱中症についての教育を受ける機会を設けることができるといいですね。

更に、万が一選手が熱中症(特に熱射病や熱疲労)になってしまったときに、誰がどのように行動するかというプラン(Emergency Action Plan=緊急行動計画)をあらかじめ立てておき、それをリハーサルする時間を作って、迅速な対応がとれるようにしておきましょう。

6)熱中症が出たときに使う道具を準備しておく

氷_キューブ_アイシング

熱中症になってしまったとしても、早めに対応をしてケアをすれば、なんの問題もありません。すぐにケアができるように、必要なときにすぐ使えるよう、練習前に準備しておきましょう。熱中症を軽いもので抑えるための予防ですね。

熱中症のケアに使う道具として必ず準備しておきたいものは以下の通り。

  • 大量の氷
  • 水風呂をつくることができる簡易プールのようなもの
  • 氷で冷やした水風呂
  • 氷で冷やしたタオル
  • クーラーが効いた涼しい部屋や場所
  • (もし医療従事者やトレーナーがいる場合は)直腸温が測定できる体温計

7) 直腸で測った体温以外は、正確ではない

体温_舌下温
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アスレティックトレーナーや医療従事者がいないと直腸温の測定は難しいですが、正確な体温(=深部体温)を知るためには直腸温をはかることが必要です。というのも、様々な研究によって、私たちが普段体温を測っているおでこ、耳、口(舌下)、こめかみ、わきでは正確な体温がわからない、ということがわかっています。

運動中の正確な体温の測定方法は?重要なのは体温測定の部位」の記事で体温について詳しく書いています。ぜひこちらもどうぞ。

熱疲労か熱射病かを見極める1つの症状として「体温が40℃以上か以下か」というのがあります。

実は深部体温は40℃以上あるので一刻も早く体を冷やさなければいけないというとき、もし信頼できる方法ではない耳やわきで体温を測定すると、39℃と出てしまう可能性があります。すると、「40℃以上ないから熱射病ではないな!じゃあ氷風呂に入れて急速に身体を冷やす必要はないな!」という判断になってしまい、適切なケアができず、どんどん悪化していってしまう可能性があります。

なかなか直腸温を測定できる環境にある部活動やスポーツチームはないかもしれませんが、直腸以外で測った体温は正確ではない、ということを知っておくだけでも、熱中症のケアをするときに悪化して手遅れになる、ということを防ぐことができるかなと思います。何か様子が変だったら、身体を冷やし始めながら、救急車を呼びましょう。

8)栄養をしっかり摂れる食事をし、7時間以上の睡眠を

1番最初に言いましたが、体調不良は熱中症になるリスクを高めます。よって、良い体調を保つためにも、栄養バランスの良い食事をしっかり摂ることや、7時間以上の充分な睡眠時間をとることなど、普段から規則正しい生活をしましょう。熱中症の予防に繋がります。

>>私のもう1つのウェブサイト「CHAINON」で「食事のバランスをチェック|1日に必要なエネルギー摂取量と栄養素」という記事を書いたので、こちらも読んでいただけたら嬉しいです。

9)気温・湿度によっては、練習時間の変更・短縮・リスケを検討する

野球_熱中症_気温

気温と湿度がともに高い日は、汗をかいて、その気化熱によって体温を下げるという身体の機能が働きづらくなり、熱中症になるリスクがかなり上がります。よって、特に初夏やまだ身体が暑さに慣れていない(=暑熱馴化がまだできていない)時期は、一日の中でも特に暑い時間帯(=10時〜17時)での練習は避けるなど、指導者は練習時間の変更を考えましょう。

気温と湿度の他に、風の強さや輻射熱も、熱中症のリスクを高めます。それらを全て考慮して出されるのがWBGT温度です。熱中症予防のために、WBGTを利用することをオススメします。

WBGTについての記事書きました。「熱中症を予防するために運動前に暑さ指数(WBGT値)を調べよう」の記事もぜひどうぞ。

10)休憩の時間をしっかり作る

休憩をとるときは、ちゃんと日陰や涼しい場所でとるようにしましょう。気温が高く、日差しも強いときは、涼しい日に練習をするよりもエネルギーは早く消耗し、すぐに疲れてしまいます。よって休憩の時間の長さも、暑い夏は少し長めにとりましょう。さらに、ヘルメットやショルダーパッドなどの装備品を身に付けるスポーツでは、休憩の時間は装備品はすべて外しましょう。体内の熱をしっかり体外へ逃がしてやりましょう。

まとめ

以上が、NATAが示している、熱中症を予防するためにするべきことです。

それぞれの項目について、より詳しい解説記事も徐々に書いていく予定です。

夏の暑い環境でも、安全に運動するために。100%のパフォーマンスが発揮できるように。ぜひ実践してみてください。

Written by
ATSUSHI
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