熱中症による事故を防ぐための熱中症情報サイト

熱痙攣とは?エビデンスで見る熱痙攣の原因・症状・処置・予防法

熱痙攣_ふくらはぎ_サッカー

熱痙攣(ねつけいれん:英語ではExercise-Associated Muscle Cramps)とは熱中症の種類の1つで、主に暑い環境で長時間もしくはキツイ運動をした時に起こる「痛みを伴った痙攣」(いわゆる「筋肉がつった状態」)のことを言います。アスリートや夏に激しい運動をする人にとっては、熱中症の中で一番多くなりやすいのがこの「熱痙攣」と言われています。

ほとんどの熱痙攣によって起こった「筋肉のつり」は1〜3分でおさまるようですが、ひどい時は数時間続くこともあるようです(一回おさまっても、何度もつってしまう)。

今回は、ACSMのPosition Stand(かなり有名な研究論文です)とNATAのポジションステイトメント(かなり有名で信頼できる研究論文です)から、熱痙攣について詳しく学んでいこうと思います。


>>参考にした論文はこちらです。

Exertional Heat Illness during Training and Competition|American College of Sports Medicine
American College of Sports Medicine(ACSM)が2007年に発表した、運動中・スポーツ中に起こる熱中症についてのPosition Standです。

スクショ_NATA熱中症

National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Exertional Heat Illnesses
NATA(全米アスレティックトレーナー協会)が2015年に発表したポジションステイトメントです。素晴らしくまとまった熱中症に関する論文です。

なぜ熱痙攣が起こるのか?熱痙攣の原因3要素

汗

熱痙攣は、以下の3つの条件がそろったときに起こるようです。それは、

  1. 運動による筋肉(神経筋)の疲労
  2. 大量の汗やおしっこによる水分の損失(=脱水)
  3. 大量の汗による塩分や電解質の損失

熱痙攣は、暑い環境での長時間もしくは強度の高い(=きつい)運動や練習・試合中によく起こります。

例えば、夏のテニスの大会。テニスの大会では、だいたい選手は1日に何試合もします。1試合目が終わって、数時間の休憩を挟んで2試合目。数時間の休憩が取れればまだいいですが、ときにはたった1時間くらいの休憩で次の試合をやったりもします。すると、前の試合で疲労した筋肉がまだ回復してない状態で次の試合をやらなければならないので、どんどん筋肉が疲れてきてしまい、それが熱痙攣を引き起こす原因となります。

また、試合というのは非常に強度の高い活動になります。相手に勝とうと一生懸命になりますからね。すると当然、汗もたくさんかくでしょう。

テニスで言えば、セット間には小休憩があるのでそこで水分補給ができますが、セット間以外ではあまり水分をとる時間はないと思います(テニスにあまり詳しくないので、間違っていたらすみません)。汗をかいた分、しっかり水分と塩分(=電解質)を補給できていれば良いですが、補給した水分・塩分を上回る量の汗をかいた場合、体内の水分と塩分が足りなくなり、筋肉の痙攣が起こってしまいます。

熱痙攣が起こる3つの原因には含めませんでしたが、「過去に熱痙攣になったことがある人」は熱痙攣になりやすいです。一度でも熱痙攣になったことがある人は、以下で説明する「熱痙攣を予防するためには?」に挙がっている予防法をしっかりやっていただけたらと思います。

熱痙攣になった時に現れる症状

熱けいれん_下肢_サッカー

熱痙攣になると、以下のような症状が現れます(1つ、もしくは複数)。

  • 痛みを伴った、目に見えてわかる筋肉の痙攣(つっている状態)
  • 局所的な痛み(ある部分がすごく痛くなる)
  • 脱水症状
  • のどの乾き
  • 汗をすごくかいている
  • 疲労

筋肉が完全に痙攣してしまう前に「筋肉のうずき」や「刺すような急激な痛み」がまず起きます。よってそれを感じたら、休憩を入れて完全につってしまうことを防ぎましょう。以下に詳しく応急処置の方法を紹介しているので、そちらもお読みください。

筋肉のうずきや痛みを超えると、筋肉が痙攣してしまいます。基本的には、身体のどの筋肉も痙攣する可能性はあります。ですが、特に熱痙攣になった時に痙攣しやすいのが、下肢の筋肉で2つの関節をまたいでいる筋肉(=二関節筋と呼ばれます)です。よって、熱痙攣によってよく痙攣してしまうのは「ふくらはぎ(腓腹筋)」や「もも裏(ハムストリング)」です。

多くの熱痙攣は、練習・トレーニングの強度の上げすぎや疲労が原因であり、筋肉の痙攣も普通は5分以内にはおさまります。

ですが、まれに重度の熱痙攣が起きることもあります。重度の場合は、筋肉に痙攣が5分以上続き、痛みも全然引かず、運動パフォーマンスを著しく低下させます。筋肉の痙攣が全然止まらなかったり、おさまっても何度も再発してしまったり、痛みがひどい場合は、すぐに病院へ行きましょう。痛みが数日間続いてしまうこともあります。

熱痙攣が起きた時にするべき最適な応急処置の方法

ストレッチ

熱けいれんが起きたとき、まず最初にするべきケアは以下の2つです。

1)ストレッチしながら休息をとる

熱痙攣が起きてしまったら、まずは今行っている運動をやめて、涼しい場所で安静にしましょう。そして、痙攣が起きている筋肉(=つっている筋肉)を、痙攣が和らぐまで「ゆっくりじっくり(=静的に)」ストレッチします。この「静的ストレッチ」が、熱痙攣が起きた際にまず最初にするべき、最も効果的な応急処置と言われています。

痙攣が起きているということは、筋肉は短く短くなろうとしています(=ストレッチとは逆のことが起きている)。短くなろうとしている筋肉をストレッチして逆に伸ばすわけですから、当然最初は軽く痛みが伴うこともあります。よって、「ゆっくり少しずつ」ストレッチをしていくことが大切です。最初は痛いかもしれませんが、少し我慢してちょっと長めのストレッチ(1〜2分)をし続けていると、だんだん痙攣が和らいでいくはずです。

痙攣が落ち着いたら、アイシングをしたり(=氷で冷やすこと)、つっていた筋肉を優しくマッサージすると良いでしょう。痛みや不快感が和らぎます。以下のような「氷のう」は、熱中症の予防や処置にはもちろん、怪我をしてしまったときの応急処置にも使えます。夏に運動をする選手やチームには必須です。1人1つ、もしくはチームで複数は必ず用意しておきましょう。私個人的には大きめの氷のう(Lサイズ)がオススメです。

2)塩分・電解質を含んだ水分や食品を補給する

熱痙攣になった人が(もしくは自分が)大量に汗をかいている場合は、その痙攣の原因は、体内に水分が足りずに脱水状態になっている、もしくは汗によって大量の塩分を失ったためである可能性があります。塩分を多く含む飲み物や食べ物を摂って、「水分」「塩分・電解質」を補給しましょう。

重度の熱痙攣であっても、意識はしっかりしていて、会話も普通に成り立ち、バイタルサイン(呼吸をしている、脈がある、など)も正常のことがほとんどです。よって、しっかりと口から水分を少しずつ補給していきます。

脱水状態の時はぜひ「経口補水液」を利用しましょう。電解質の割合が高く、糖分の割合が低く設定されており、より素早く体内に水分が吸収されるのが経口補水液です。有名なのは大塚製薬の「オーエスワン」ですね。他にもアクエリアスの経口補水液や明治が出す経口補水液「アクアサポート」もあります。どれでも良いので、ぜひ夏激しい運動をする際は、水やスポーツドリンクとともに経口補水液も用意しておきましょう。

【明治】 アクアサポート500mL
アクアサポート

【追記:2018/7/24】経口補水液の正しい使い方を解説する記事を書きました。「経口補水液の賢い飲み方|水・スポーツドリンクとの併用がベスト」もぜひお読みください。

また、ACSMの参考文献には、以下のようなものを補給するべきと紹介されています。

  • 300〜500mLの水もしくはスポーツドリンクに、ティースプーン1/8〜1/4杯の塩を加えたもの
  • 300〜500mLの水分と、1〜2錠の電解質サプリメント
  • 塩気のあるスナックや食べ物

最後の「塩気のあるスナックや食べ物」は、論文の中には具体的なものはあげられていませんでしたが、オススメは「梅干し」や「みそ汁」といったものです(練習中にみそ汁を用意している人はなかなかいないかもですが。。。笑)。夏の合宿などで、午前と午後の2回練習するときや、大会で1日に何試合もする日などは、お昼ご飯や休憩中にみそ汁を飲むと、しっかり塩分やミネラルが補給できます。

ほとんどの熱痙攣は「安静」にした状態で、「ストレッチ」をして、「塩分・電解質を含んだ水分もしくは食品を補給」することで治ります。そして、痙攣がおさまったら、基本的には練習や試合に戻っても大丈夫です(もちろん、痙攣以外の熱中症の症状がある場合は、涼しい場所で引き続き休んでください)。しかし、ひどい熱痙攣で全然筋肉のつりがおさまらなかったり、おさまってもまたすぐつってしまう、もしくは全身の筋肉がけいれんしている、といった場合はすぐに病院へ行きましょう。点滴をして、水分をはじめとした栄養分を体内に補給する必要があります。

筋肉のけいれんがおさまった後も、トレーナーや指導者は常にその人を注意深く観察しましょう。たとえ筋肉のけいれんが起こらなかったとしても、他の種類の熱中症になってしまう危険性は大いにあります。

熱けいれんを予防するためには?

水分補給

この記事の最初に、熱けいれんが起きる原因は「筋肉の疲労」「脱水」「汗による塩分・電解質の損失」と言いました。運動をしているので筋肉が多少疲労してしまうのは仕方ありません。よって、熱痙攣にならないよう予防するためには、残りの2つにならないようにすることが重要です。熱痙攣を予防するためにできることは以下の通りです。

こまめに水分補給をして、脱水状態にならないように

こまめに水分補給の時間を作ることは、その時間で筋肉を休ませることもできるため一石二鳥です。暑い中の運動・練習の際は、こまめに「水分補給+小休憩」の時間をとりましょう。水分補給の具体的な方法については「【まとめ】最新の科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給」でかなり詳細に解説しています。

塩分・電解質を含むものを補給する

汗によって失われるのは水分と塩分です。ドリンクでも食品でもいいので、汗によって失われる塩分をしっかり補給しましょう。脱水症状になってしまったら、経口補水液を補給して素早く水分と電解質を体内に吸収させます。

同じ練習や運動をしていても、人によって汗をかく量は違います。人よりも汗をかくという人は、運動中に塩分・電解質をしっかり補給できるドリンクを用意しましょう。記事の途中でも挙げましたが、梅干しを用意しておいて、休憩中に食べることも効果的です。

さらに、暑い中運動をする人は、普段の食事でも塩分を積極的に摂るように心がけましょう。部活動を頑張る子供を持つ両親は特に、塩分がしっかり摂れる食事を用意してあげて、その日に失った塩分はその日のうちに補給してあげられるようにしましょう。

暑熱馴化=体を暑さに慣れさせる

これは熱けいれんにならないように、ということはもちろん、熱中症自体を予防するためにとても重要なことです。暑熱馴化をすることで、より身体が暑さに順応し、汗をかいても大量の塩分を失わないようになります。詳しくは「【部活動指導者必読】暑熱馴化〜夏の暑さに身体を慣らすための14日間〜」をお読みください。

まとめ

熱中症の種類の1つ、熱けいれんについてでした。熱中症は大きく分けると4種類あります。他の種類については随時書いていこうと思います。

追記(5/13/2017)

熱中症の他の3種類の記事書きました。「熱中症の一種『熱失神』とは?熱失神の原因・症状・処置・予防まとめ」「熱中症で最も多いのが熱疲労!原因と症状から見る対処法とは?」「熱中症で一番重度な『熱射病』の見極めと治療法を徹底解説!」の記事もぜひお読みください。

Written by
ATSUSHI
Join the discussion